SDGs

障がいのある芸術家を社員採用 エスプール、キャリア支援東京藝大の指導の下で創作活動

アイキャッチ=写真1(作品)
田村さんの作品。

 障がいのあるアーティストを「社員」として雇い、創作活動を支援する事業が注目されている。障がい者雇用支援事業を展開しているエスプール(浦上壮平・代表取締役・東京)は約1年前、東京都内に活動拠点として「COLORS」(カラーズ)を立ち上げた。現在、精神障がい者4人が在籍し創作を続けている。作品を購入したり、借りたりする企業には、SDGs活動として社会貢献にもつながることが期待され、関心が高まっている。

COLORSの外観 。
COLORSの外観 。

生活不安を解消

 昨年11月にオープンしたCOLORSのアトリエは、東京藝術大学に近い東京都文京区の貸しビルの1階にある。アトリエの設計や設備の整備、室内の色彩などには東京藝大のノウハウが多く取り入れられている。

 エスプールの鬼木陽一執行役員は「周辺には東京藝大のほか、画廊などの美術関連の店舗や施設が多く、アーティストの創作意欲を高める環境が整っています」と語る。COLORSのオープン後も東京藝大から芸術指導や意見交換などの面で協力を受けているという。

 一般的には、障がいのあるアーティストを支援する団体の場合、登録制を導入し、展示会やネットなどを介して作品が売れたとすると、その売り上げの一定割合を制作者側に支払うケースが多い。これに対し、COLORSのように社員にして雇用契約を結び、給与を払うシステムはまだ珍しい。

 鬼木執行役員は社員化の狙いについて「芸術分野に優れた特性や才能がある、障がい者や家族の大きな悩みは『収入が不安定で経済的な自立が難しい』『将来が不安だ』『必要な画材や道具などが買えない』などと切実です。社員であれば、生活の不安は解消し、必要品が入手できるようになる」と説明する。

 社員には、給与のほか、作品が高く売れたり、レンタル契約できたりする場合、インセンティブとして給与とは別に報酬を上乗せすることを検討しているという。画材などについては必要経費として処理している。

 知的障がい者や精神障がい者の中には定刻の出勤や退社など、規則的な時間の就労になじめない人も少なくない。COLORSではアーティストはアトリエへの「常時出勤」は義務付けられておらず、状態によって自宅で就労ができるよう配慮されている。

取材に応じる林谷隆志さん 。
取材に応じる林谷隆志さん 。

多くの人に作品を届けたい

 「私の特性である『繊細さ』『複雑さ』に『色の鮮やかさ』などを加えた作品を通して(私の)世界観を楽しんでもらえれば・・・」と話すのはCOLORS所属の林谷隆志さん(42)。各種受賞歴があり、多くの作品が企業から採用されているデジタルアートのプロフェッショナルだ。

 高校時代からさまざまなアートを手掛けてきた。関東圏の警察官として勤務した際に心身の不調を覚え、発達障害(ASD)と診断された。退職後、フリーのパラアーティストとして展示会やオンラインなどで作品を発表してきた。
 作品には、モノクロのものもあるが、目をひくのは大胆な構図をベースにした鮮やかな色使いと細やかな表現。「(COLORSの)当事者の1人としてプロジェクト活動に協力していきたい」と抱負を語った。

林谷隆志さんの作品 。
林谷隆志さんの作品 。

 また、田村健さん(26)は小学3年生の時、自閉症スペクトラム(旧病名・アスペルガー症候群)と診断された。職業訓練校を修了後、障がい者枠(障害者雇用促進法に基づく)でIT関連企業に就職したものの、「子どものころから好きだったアートの世界で働きたい」との思いからCOLORSに入った。得意分野はデザインやイラストなど。シンプルな構図や多彩な色使いで見る人をメルヘンチックな世界に誘う作品が多い。

 書籍類の表紙やクレジットカード、航空会社のしおり、カレンダー、クレジットカードなどのデザインなどに採用されている。「小さいころ、ボールペンで細かいものを描いていた。(自分の)特性を生かせる仕事を続け、たくさんの人に作品を届けたい」としている。

田村健さん 。
田村健さん 。

SDGsの一環として

 完成した作品については、エスプールの営業担当社員が販売・レンタルを担当している。作品は、老舗ホテルや大手建設会社にレンタルされるほか、生活グッズやパンフレットなどに使用されるなどしている。
 エスプールの中核事業は2010年に始めた企業向けの貸し農園「わーくはぴねす」の運営。

 企業と知的障がい者や精神障がい者を仲介する形で農業就労を支援している。現在、全国37施設で利用企業は約500社、一般雇用されている障がい者は約3,000人を超えている。

 またエスプールは既に、運動能力に特性がある障がい者をパラアスリートとして支援する事業を立ち上げている。

 鬼木執行役員は「作品が売れたり、利用されたりして利益が出ることがベストですが、現時点では(事業経営としては)まだ厳しいのが実情です。ただ、アーティストを育てることが障がい者雇用支援という社会貢献活動になっている一面があります。一方、パラアーティストの作品を買ったり、利用したりすることがSDGs活動の一環として社会貢献につながることを理解している企業も少しずつ増えており、パラアーティストの作品を積極的に活用していただきたい」と呼び掛けている。

文・福祉ジャーナリスト 楢原多計志