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日本人のスマホ依存がもたらすだろう悪影響を強く危惧する! 脳科学者の川島隆太・東北大学加齢医学研究所長に聞く

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 世界中を見渡しても日本人ほどスマホ頼みの国民はいないという。確かに、電車の7人掛け座席に座っている全員がスマホを見ているというのも日常茶飯事。友達が4人集まっても、それぞれがスマホに熱中しているという光景も見覚えがあるだろう。赤ちゃんを「子守り」するためにスマホを与えている母親すらいる。

 スマホに依存していると自覚している人の割合は20.9%。最も多かったのは30代の女性で依存を自覚している人が32.7%に上った。そして、ちょっとした待ち時間にスマホをいじってしまうという人は男女あわせて57.6%だった。MMD(モバイルマーケティングデータ)研究所(東京)が2022年10月11日にスマホを所有する15~69才の男女559人を対象に行った調査で明らかになっている。

 今や世界一のスマホ依存ともいえる日本人にこれから先にもたらされるだろう悪影響を強く危惧して警鐘を鳴らし続けている脳科学者がいる。東北大学の加齢医学研究所の川島隆太(かわしま・りゅうた)所長である。

 2013年度に宮城県仙台市で「生活・学習状況調査」と「標準学力検査」の結果からスマホ使用と学力との関係を調査した。川島所長によると、その結果分かったのは、学習でスマホを使用した場合、1時間未満なら成績には影響しないということ。

 だが同時に判明したのは、「スマホを3時間使って勉強した場合、成績は低下した」ことだと川島所長は言う。

東北大学加齢医学研究所長・川島隆太教授
東北大学加齢医学研究所長・川島隆太教授
 スマホが原因で学力が低下

 さらに、川島所長らは仙台市教育委員会と相談して、2014年度から7万人を超える小中学生の一人一人を識別できるようにして追跡調査を行った。

 その調査などで分かってきたのは次のようなことだ。

 〇スマホ使用による子どもたちの成績の低下は、自宅での「学習時間」の長さとは直接に関係していないし、「睡眠時間」とも直接に関係していないということ。

 〇明らかにスマホが原因で、結果的に学力が低下していたこと。スマホを始めると成績が下がり、スマホを手放すと成績が上がるということ。

 〇勉強中に使うアプリの数が多ければ多い子どもほど、学力が低いこと。ウェブサイトをハシゴし、YouTubeを見、ゲームをし、そんな間にLINEをするというようにアプリを次々に切り替える「スイッチング」をしている間は「脳が何にも集中できない状態」になること。

 LINEのような「インスタント・メッセンジャー」は、学力の押し下げ効果が大きいこと。
 脳自体にスマホが悪影響を与えることも明らかになっている。

 〇スマホの長時間使用が長いこと続くと、「大脳灰白質(だいのうかいはくしつ)」(=大脳皮質)と「大脳白質(だいのうはくしつ)」(皮質の内側に白く見える部分で神経線維の層)の両方が、かなり広範にわたって発達に遅れが生じていること。

 〇ほぼ毎日インターネットを使う子どもたちは、大脳灰白質の増加の平均値がゼロに近く、ほとんど成長が止まっていたこと。それは、スマホでインターネットを使いすぎたため、脳の発達そのものに障害が起きた可能性があると思われること。スマホを高頻度で使えば、3年間で大脳の発達がほぼ止まってしまうこと。

 さらにはメンタル面の影響や依存・中毒も懸念される。

 〇スマホを頻繁に使う人ほど、自尊心が低かったり、不安や抑うつ傾向が高かったり、共感性や情動制御能力が下がったりという状態が観察されたこと。

 〇「スマホ依存」、「ゲーム依存」といった過剰な使い方をする人の脳の反応は、アルコール、カフェイン、覚醒剤、シンナー、鎮痛剤、睡眠薬、コカイン、タバコなどへの依存や中毒と診断された人の脳の反応に似ていること。

 「成人がスマホに悪影響を受けたとしても、それはお酒やタバコと同じように自己責任ということが出来るかもしれませんが、問題は子どもたちです」と川島所長は言う。

危惧される「GIGAスクール構想」

 そのために、川島所長がいま一番危惧しているのは、政府が進めている、オンラインを導入した「GIGA(ギガ)スクール構想」だ。「一番の懸念はICT(情報通信技術)が教育に入ることで、子どもたちにどういうメリットがあるのか、エビデンスがないことです」。

 川島所長は言う。「何となく、文部科学省など霞が関と永田町の思いつきで、子どもたちを使って壮大なる人体実験をしてしまうことを懸念しています」

 文科省によると、「GIGAスクール構想」とは、2019年に開始された、「ICTを基盤とした先端技術や教育ビッグデータの効果的な活用」によって「多様な子どもたちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」の実現を目指し、全国の児童・生徒に一人一台のコンピューターと高速ネットワークを整備する取り組みのこと。

 川島所長によると、ICTをディスカッションなどグループ活動で活用した場合には学力に影響しなかった一方で、情報収集など個人レベルで活用した場合には学力が低くなることが分かっているという。「GIGAスクール構想は学力を押し下げるであろうことが見えています。文科省は何のためにやっているのか? 根本的に疑問です」

 「子どもたちの未来を考えると暗たんたる気持ちになります。エビデンスを出せと言いたい。そもそも国立大の付属(小中学校)で試験導入してから始めるべきだった。コロナをうまくきっかけとして全国に広げたのです」と川島所長は語る。

 川島所長は、「そもそも海外では、行き過ぎたICT活用からは撤退しています、韓国やオーストラリアがそうです。社会実験に失敗したと公言しています。電子教科書からも撤退しています」と言う。さらに続けて、「それを日本は知っていてやっているというのは本当に奇妙です。理由を聞きたい。大人のメンツと子どもの将来とどちらが大切なのか? 文科省など霞が関と永田町はどちらが大切なのかを考えなければいけない時です」。

 家庭だんらんの場にスマホが入り込んでいる日本

 欧米は、日本ほどスマホ使用が突出していませんが、それは家族が社会の単位としてまだ機能しており、さらには宗教観もあるからだと思われます、と川島所長。さらに、川島所長は付け加えた。「個が確立している背景には狩猟社会だったことも関係しているのでは」と。

 一方で、「スマホ使用が突出している日本をはじめとするアジア圏は、もともとは社会が農耕型で、集団でもってアイデンティティーが確立されてきた歴史があると思います。家庭が必ずしも存在しなくてもよしとされてきたのではないか」と川島所長は言う。

 そんな日本では、「家族だんらんの場にもスマホが入り込み、家族がレストランで食事をしていても、それぞれがスマホを見ていたりするのです。その異常さに気付かないのでしょうか? 気付くような感性が失われてしまっているのでしょうか?」と川島所長は疑問視する。

 川島所長は、どうしてそこを問題視するかといえば、「子どもの教育に責任を持つべきは学校ではなく、全ての根源は家族だからです。家庭での習慣が子どもの将来を決めます。家族とスマホの在り方について現状のままでいいのならば、それが目指す社会としての総意であるのなら仕方ありませんが、どう逆立ちしても、気持ちが悪い。自分の感性では疑問を持たざるを得ないからこそ、くさびを打つ努力をしているのです」と述べた。

 仙台市教育委員会に、ある端末メーカーからスマホなどICTに不都合なデータを外に出さないようにとプレッシャーがかかってきました、と川島所長は言う。「ICT推進には経済を回すという側面があると思いますが、経済を回すことと国自体の将来とどちらを取るのでしょうか? いったい誰が得をするのでしょうか?」

 スマホ利用促進というのは、「それをあてがって一日過ごせるようにするというように社会を支配する手法そのものです。歴史的に近いのは、まさにアヘンだと思います。使わせて富を取る。使っている人間にモノを考えないようにさせる。でも使っている本人は楽しいし、使わないと不安になる。まさに依存、中毒なのです」と川島所長は言う。

 まだまだ“キワモノ”扱いの「デジタルデトックス」

 川島所長によると、「デジタルデトックス(一定期間スマホなどデジタルデバイスとの距離を置くことでストレスを軽減して、現実世界のコミュニケーションや自然との触れ合いにフォーカスする取り組み)」の必要性に気付いた人は「離脱」できるという。

 「ICTといったデジタル推進派とデトックス派がせめぎ合うようになってくれれば面白いと思います。でもデトックスはまだまだ“キワモノ”扱いです」。

 「今の子どもたちが(スマホ依存のまま)大人になって、他者の気持ちが分からない(傾向のままだ)としたら、我々に将来、年金を払ってくれなくなるのではないかと危惧しています。それこそ、うば捨て山に捨てられてしまうのではないかなど不安があって、自分自身の老後のためにも何とかしたいのです」と川島所長は語った。

川島教授の著書『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題 』(アスコム)と『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)
川島教授の著書『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題
』(アスコム)と『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)

 (記事執筆にあたっては、川島所長へのインタビューに加え、著書『オンライン脳』(アスコム)、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)も参照した)