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ピアノ弾き語りって、なんて素敵なんだろう 柳原陽一郎の新譜『GOOD DAYS』を聴いてそう思った

『GOOD DAYS』 スイーツデリレコーズ SDR-009 ¥3,300(税込価格)
『GOOD DAYS』
スイーツデリレコーズ
SDR-009 ¥3,300(税込価格)

 海辺を散歩するとき、丸みを帯びたガラスの破片が砂浜に転がっているのを見つけたことはないだろうか。波に洗われて角が取れ、曇りガラスのような風合いになった、ブルーや茶色の半透明のかわいいガラス片だ。ビーチグラスとかシーグラスといわれ、宝物にする人もいるようだ。柳原陽一郎の新譜『GOOD DAYS』を初めて聴いた時、脳裏にはなぜかこのビーチグラスが思い浮かんだ。

 メジャーデビュー30周年となる今年、柳原が発表したこのアルバムは、セルフカバー8曲を含めたカバー曲9曲に新曲3曲を加えた12曲を収録。初の全編ピアノ弾き語りアルバムだ。率直な感想は、ピアノ弾き語りって、なんて素敵なんだろう――その思いは繰り返し聴くほどに強くなっていった。これほどピアノ弾き語りの力強さを感じさせたアルバムは、そう多くはない。

 もともと柳原の音楽は、哀愁とポップ、日本歌謡と洋楽、コミカルとシリアスといった異質なものが絶妙に混ざり合っている。また、シンガーソングライターとしての、あるいは人間としての真摯さゆえに、ノスタルジー、ナイーブな感情、エキセントリックさ、プロテスト精神などを無防備なほど正直に表現する。口当たりは良いのだけれど、どこかシェフのこだわり、ひねりがちりばめられた通好みの料理のような趣があったのだ。

 ところが今回は、全編ピアノ弾き語りというスタイルをとったことで、楽曲のベクトルが一方向になり、まるで組曲のようにそれぞれの楽曲が力を合わせて一つの世界を作り上げている。ピアノの深々とした響きと柳原の艶やかな声だけのシンプルな表現なのに、(いや、シンプルだからこそか)聴く者は否応なくその世界に引き込まれてしまう。魅力的なモノクロの写真集を見る時のように。

 このアルバムの世界を表現するなら鎮魂歌。ただし、死者の魂を鎮めるのではなく、コロナ禍で巣ごもりをしている孤独な魂に捧げられたようなアルバムだ。やるせなさや寂しさを感じた静かな夜に聴いてみてほしい。個人的には、ジョン・レノンのリリカルな楽曲やニール・ヤングのアコースティックな楽曲を思い出し、キース・ジャレットの『ケルン・コンサート』すら連想した。

 柳原がいままで何百回、何千回、いやひょっとして何万回も歌ってきた「さよなら人類」や「きみを気にしてる」のような収録曲たちは、時という波に洗われてきた、いわばビーチグラス。それらと何の違和感もなく並ぶ新曲も含め、僕の宝物になりそうだ。

柳原陽一郎
柳原陽一郎

文・鬼院 丈