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フィルムコミッションは映画の未来だ! ~撮影現場を支える縁の下の力持ち~【第3回】

坪野鉱泉でロケをする『牛首村』の撮影隊。
坪野鉱泉でロケをする『牛首村』の撮影隊。

 映画やテレビドラマの撮影を支援するフィルムコミッション(以下FC)にスポットを当てた特集も、いよいよ最終回。前回は海外作品の誘致について紹介したが、ここでは地域FCの具体的な声を拾いながら、日本映画の誘致事情や今後の課題に迫ってみたい。

海外でも注目の『ドライブ・マイ・カー』の場合

 村上春樹の小説を濱口竜介監督が映画化した『ドライブ・マイ・カー』(全国公開中)の国際的な評価が高い。フランスのカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、アメリカのアカデミー賞の前哨戦となる賞レースを席巻。4部門でノミネートも果たし、オスカー受賞に期待が高まる。この作品は韓国の釜山でロケが行われる予定だったのだが、コロナ禍で断念。代わりとなるロケ地の誘致に成功したのが、広島だった。

 「広島フィルム・コミッション」の西﨑智子さんは、「国際的な演劇祭が開かれる設定なので、規模感のある都市を候補として下見をされていました」と振り返る。決め手となったのは、広島市環境局中工場というごみ処理施設。世界的な建築家の谷口吉生が設計を手掛けた。「映画のセリフにも出てきますが、平和記念公園には、原爆ドームと慰霊碑を結ぶ平和の軸線があります。谷口さんは丹下健三さんのお弟子さんで、自分の建物で師匠の軸線を止めるわけにはいかないと、吹き抜けのデザインにして海まで抜かせているんです。そういうお話をしたら、濱口監督が『ごみ処理場にまで平和の理念があるとは文化を感じられる街で、国際演劇祭開催地にふさわしい』と言って決めてくださった」。

 建物内には100mに渡って伸びる廊下があり、過去にも近未来映画『秘密 THE TOP SECRET』で撮影に利用されている。「『ドライブ・マイ・カー』は、私の歴史的な話にも重きを置くチームだったことが、うれしい驚きでした」と西﨑さん。

広島市環境局中工場でロケをする『ドライブ・マイ・カー』チーム。 ©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
広島市環境局中工場でロケをする『ドライブ・マイ・カー』チーム。
©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

ホラー映画『牛首村』の場合

 心霊スポットを舞台にしたホラー映画『牛首村』(2月18日から全国公開中)は、実際に北陸最恐の心霊スポットとして知られる「坪野鉱泉」(富山県魚津市)で撮影された。「富山県ロケーションオフィス」の前佛聡さんは、撮影の誘致に「最初は皆さん、大反対でした」と言う。「廃業してから何十年も経っている廃ホテルで、不審者の破壊行為や火事騒ぎ、神隠しのうわさまであって、地元からすると迷惑施設。そこでホラー映画を撮りたいという依頼ですから、さらに環境が悪化したらどうするんだ! と」。

 とはいえ、地域をPRするチャンス。話し合いの場を設けて、住民アンケートを取った結果、過半数を獲得。根強い反対意見にも耳を傾け、1カ月かけて了承までこぎ着けたという。

 「放っておいても環境は良くならないですから。今は、不審者が来ても警察と連携できるように防犯カメラを設置して、地域全体の防犯を強化しましょうという流れになっています。FCが、何かを変えるための背中を押せた」と、前佛さんは手応えを口にする。

作り手と地域のウィンウィン

 また、地域が主体となって企画・製作され、その地域で撮影される“ご当地映画”の場合、FCがより頻繁に関わるケースも少なくない。これまで、地産地消で終わらせず、全国へと発信するために、大林宣彦(『この空の花 長岡花火物語』ほか)、佐々部清(『大綱引の恋』ほか)といった知名度のある大物監督が、率先してご当地映画を引き受けてきた。おかげで現在、ご当地映画はコンスタントに作られるようになっており、東京でも『三度目の、正直』(神戸)、『ミラクルシティコザ』(沖縄)、『あしやのきゅうしょく』(兵庫)、『吟ずる者たち』(広島)などが1月から3月にかけて相次いで公開される。

広島FCが支援した『吟ずる者たち』の撮影風景。スタッフが巨匠・今村昌平作品を手掛けたベテランぞろいで、「要望のレベルが高くて、明治時代の酒蔵らしい旧家を見つけるには苦労しました」と西﨑さん。
広島FCが支援した『吟ずる者たち』の撮影風景。スタッフが巨匠・今村昌平作品を手掛けたベテランぞろいで、「要望のレベルが高くて、明治時代の酒蔵らしい旧家を見つけるには苦労しました」と西﨑さん。

 『瀬戸内海賊物語』『未来へのかたち』など地元愛媛のご当地映画を発表し続ける大森研一監督は、こう語る。「僕の場合、原作のないオリジナル作品がほとんどなので、ゼロから物語を作っていく。その際に、地方の事情や文化、歴史がアイデアの源になります。しかも、映画に出てくる風景や原産品など、全てが本物。それが生むリアルな空気感が大きなメリットですね」。ジャパン・フィルムコミッションの関根事務局長も「作る側も企画を探しているので、FCや自治体が、意外と知られていない地域の祭りや歴史上の人物などネタの情報提供を行っている」と同じ意見だ。さらには、地域企業からの融資など製作費を調達しやすく、地元での着実な興行も見込める。また、NHK大河ドラマの例でも分かるように、まずはその地域にもたらす経済効果や活性化であり、ひいては文化振興へとつながって、例えば若者の地元離れを抑止する一助になるなど、地域側のメリットも大きいのだ。

大森研一監督。 ©2021「未来へのかたち」製作委員会
大森研一監督。
©2021「未来へのかたち」製作委員会

ご当地映画の課題と可能性

 とはいえ、メリットばかりではない。「ご当地映画を地域主体で製作すると、地域の思いが強くなり過ぎて自己満足の作品に陥ってしまい、興行がうまくいかず、回収するために地元の人にチケットのノルマを課すケースもある」と関根事務局長は課題を指摘する。それでも、解決策はすでに見えている。大森監督は言う。「僕の場合は、地元と触れ合う期間を長く取っている。地元と一体化して作る感じ。同時に、どうすれば全国で楽しんでもらえるか、他の場所でも成立できる普遍性も心掛けています。おかげで、作品を重ねるにつれ、監督の領域には口出ししないと、地元側がわきまえてくださるようになってきました」。このスタンスが浸透すれば、地方発信は多様性という観点からも時流を得ており、ご当地映画の需要はさらに高まるに違いない。

 日本では現在、日本映画だけで年間600本以上が製作されている。ハリウッドをもしのぐ数だ。そこへ、さらに内閣府の実証調査によって海外大作の撮影も加わった。正式にインセンティブが成立すればさらに増え、作品の規模にかかわらず世界中から撮影支援のオファーが押し寄せるだろう。FCは、その多くに携わっていくことになる。まさに映画界の未来を支える縁の下の力持ちである。

取材・文/外山真也