おでかけ

50年間ハーモニーを奏でる楽器隊 音楽とおいしい料理の素敵な村 【留学生あきこ・ポルティコ ワクワク通信】

ポルティコ村の楽器隊
ポルティコ村の楽器隊

 私が料理を学んでいるイタリアのポルティコ村には、約150年の歴史を誇る楽器隊がある。楽器隊は老若男女40人ほどのメンバーで構成され、村の年中行事で活躍している。

 「アキ、何か楽器できるか?」。そんなシェフのひと言から、私は12月のクリスマスコンサートにフルート演奏で参加することになった。
 合奏練習日の初日、村役場として使われていた建物の1階にある部屋に向かうと、最後に到着した私をみんなが一斉にギロリと振り向き「おお、日本人が来たぞ!!」と歓声で出迎えてくれた。指揮者のラウラから「待ってたよ!!」と声をかけられ、私はすんなり楽器隊の一員になることができた。中学高校を通して6年間、吹奏楽部に所属した私は、楽器隊からどんな音が出てくるのか楽しみでワクワクしていた。

 「新しいメンバーが入ってくれたことだし、気合いを入れて頑張りましょうね!」。ラウラがメンバーに声をかけ指揮棒をあげる。曲はビートルズメドレー。ラウラの言葉を聞いた楽器隊は気合いを入れ、さあ1発目!!。最初の音をパーンと鳴らすがキレイに決まらない。2回目も3回目も。ラウラがリズムの確認をしたところ、あるユーホニアム奏者のリズムが半拍遅れているようだ。それに気付いたメンバーが「手を叩き」「歌い」「楽器を吹いて」正しいリズムをユーホニアムの奏者に教えようとしているが、各々のリズムが全て違う。見かねたラウラが正しいリズムを教えてようやく解決。ビートルズメドレーを無事演奏したみんなはひと安心。そして水分補給と称して赤ワインが回ってくる。

 2曲目はサックスソロがメインのジャズ調バラード。ソロを担当するのはジョバンニおじいちゃん。ビートルズメドレーではジョバンニおじいちゃんもリズムを乱していたため心配だったが、2曲目のソロパートが始まるとその不安も吹きとんだ。なんと堂々と甘く迫力のあるサックスの音色なのだ。その演奏に惚れ惚れして最後まで聞き入った。

 本番まで何回か練習を重ねたが、合奏に対する考え方が日本とは全く違うと感じた。日本では『他人の音を聞き、そこに自分の音を乗せていく』といった合奏をする経験が多かったが、ここポルティコ村では『自分の音を合奏の中で際立たせ前に前に出て行こうとする』感覚なのだ。ほぼ毎日顔を合わせている相手と長い時間話し、会話から人間関係を作っていくイタリア人。合奏の作り方もイタリア人そのものだ。

 ポルティコの楽器隊は音楽教室もやっている。研修先のシェフが15年ほど前から初心者向けの小さな音楽学校を始めたのだが、受講費の支払いが難しい人はお金を払わなくてもよいそうだ。4月の復活祭、10月の収穫祭、夏と冬のコンサート、結婚式、お葬式等、楽器隊は150年前からずっとリズムを刻みハーモニーを奏で、人々の生活を慰めてきた。「音楽がない村は死んでいるも同然の村だ」と楽器隊のメンバーが言っていた。彼はバンドの歴史や展望を熱く熱く、時には“歌いながら“私に教えてくれた。

クリスマスコンサートの模様
クリスマスコンサートの模様

 そして迎えたコンサート当日。クリスマス時期の大忙しなレストランの仕事がひと段落ついた21時ごろ、シェフが特別にコンサートに送り出してくれた。急いで支度をして会場に着くと、楽器隊のみんなに「やっと来た!待ってたよ」と声をかけられ、私は舞台へ上がった。指揮者のラウラの挨拶からコンサートが始まった。練習時はリズムが合わなくて苦労したビートルズメドレーも、本番では楽器隊の息がぴったり。観客はメンバーの家族や顔見知りばかりで、会場はあたたかい拍手で包まれた。最後の一曲はジョバンニおじいちゃんのサックスソロ。立ち上り前に出たジョバンニおじいちゃんは、素晴らしい演奏でコンサートを締めくくった。

ポルティコは音楽の村なのだ。

<筆者>
国際基督教大学  新澤暁子(しんざわあきこ)
日本の大学を休学して、イタリア北部エミリアロマーニャ州のポルティコという村のレストランで料理を勉強中。ポルティコは州都であるボローニャから南に約60km離れたところにあり、人口300人ほどの小さな村。