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日本人は着物と一緒に「装いの哲学」も脱ぎ捨ててしまった?|安積陽子氏インタビュー<2>

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海外で“笑われてしまう日本人の服装や振る舞い”を辛口で紹介した話題の本『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』。周囲の視線を気にする日本人が、洋服の選び方や着こなしについては、なぜか無頓着。 奥深い内面があれば、当然、それは外見にも表れているべきという国際認識がある中、今後私たちは洋服をどのように装い、周囲にどう振る舞えばよいのか? 

同書の著者で、国際ボディランゲージ協会代表理事、イメージコンサルタントとして世界標準の装いや仕草に精通する、安積陽子氏へインタビュー。

連載 第2回 テーマ:日本人は着物と一緒に「装いの哲学」も脱ぎ捨ててしまった?

日本の着物の着こなしには元来、季節感やTPOに応じて生地素材やデザイン、小物を選ぶ文化があったはず。日本人は着物を捨て洋服を選んだとき、一緒に「装い」に教養やセンスをしのばせることまで捨ててしまったのか?明治時代から変わらない日本人の装いに対する価値観は、失笑されるだけでなく、時には相手に不快感を与え、非難されることも。一体何が笑われ、何が非難されているのでしょうか?

以下のリスト、一つでもチェックがつく人は必読ですよー!

仕事での海外出張や外国人に対応する機会が多い
いわゆる、高級ブランド品を持っている
洋服は見た目のインスピレーションで選ぶ
洋服の歩みについて、学んだことがない

海外で笑われてしまう著名人は誰?

ー前回のインタビューでも話題にのぼりましたが、安積さんは著書の中で、日本の政治家や著名人の装いを、ズバッと指摘されていますよね。 
例えば、外交の場に相応しくない首相の白い靴下やローファー、他者目線な小池百合子氏と自己目線な稲田朋美氏の装いの比較、世界から顰蹙を買った欅坂46のナチスの軍服の衣装、etc.(※詳細は『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』をご覧下さい!) 日本の著名人の装いが海外で失笑されていたり、非難されていたりする現状が伝わってきました。 ちなみに、あえて言うならば、海外で失笑されている最もインパクトの強い日本人は、どなただと思いますか? 

「装いに関して言えば、日本のトップの方やベテランの政治家の方は、“裸の王様状態”になってしまっている傾向にあるのではないかなと感じますね。これは政治批判や政策批判ではなく、あくまで“装い”についての話ですが、前回のお話でも触れた通り、周りがそれを指摘できないような空気があるのではないかと思います。

国益を左右するような政治を司る立場にあれば、当然、その側近の方々が、プロトコール(外交儀礼)や不文律のルール(※明文化されていないが、その国に行くのならば当然知っておくべきこと)を共有しているはずなのに、なぜか日本は歴代そこを見落としている方が多いというのが、すごく焦れったい部分です。」

ブランド志向、ロゴのシャツ、盛りすぎ、etc.やってしまいがちな失笑を呼ぶスタイル

-日本の人々のどういった装いが外国人から笑われてしまうのか、具体例をぜひともお聞きしたいです。特に、エグゼクティブだけでなく、一般の人々にも当てはまりそうなケースが気になります。

「そうですね・・・強いて言えば、ブランド思考ですね。
ビジネスシーンでも、主張の強いブランドのロゴが入っているアイテムを平気で使われている方がいますが、それは、“本人に自信がないから、ブランドの力を借りている”というメッセージに映りやすいです。

“ブランド品を持てる財力がある”ということは理解できますが、いざ、一緒に食事をしたときに、テーブルマナーを知らなかったりすると、外見と内面のアンバランスさが露わなり、かえって、外見をブランドもので取り繕っている印象を与えてしまいます。ブランドのものを身に付けるのであれば、それに見合った行動や振る舞い、マナー、教養が求められます。」

ーなるほど!つまり、持ち物と自分の振る舞いを比例させないとクスリと笑われてしまうわけですね!

「まさに、そうです。知り合いのホテルマンが言うには、“日本の人はブランド物の良いバッグを手に持ってホテルに入ってくるけれども、バッグの扱い方が雑だ”と。つまり、何を持っているかよりも、“それを持ってどういう振る舞いをしているか”を見られているわけなのですが、“物(ブランド品)を持っている”というところで完結して、自己満足してしまっている方が、日本には結構いるのではないかなと思います。」

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ブランドのバッグを持ってファーストフード店へ行くという日本でよく見かける光景も、外国人の目には不思議に映る」と話す安積さん。欧米諸国を中心として、海外では、『ブランドを身に付けるならば、それに相応しいレストランへ行くのが当然』という意識が根付いているのだそう。

ーブランド思考の他には、何かありますか?
 
「本にも書いていますが、理解に苦しむ英字の単語が書かれたTシャツなどですね。著名人の方にもよく見受けられますが、ロゴのデザインとしては、なんとなく格好よく見える単語でも、意味を知らずに纏っている方は、滑稽に見えてしまう。

例えば、知的さも魅力とされていた俳優の向井理さんが『Pleas trust me I am Asshole』(※私はアホです、の意) と書かれたTシャツを着ていた時には目を疑いました。

また、モーニング娘。のメンバーの方が過去に、『I AM A WHORE』(※私は尻軽女の意)と書かれた衣装でテレビ番組に出演していましたが、これにも唖然としました。

ロゴシャツに入った単語の意味を知らずに着ているというのは、洋服が発する意味や印象を深く考えず、見た目の雰囲気だけで洋服を選んでいるということですので、結果、表層的に物事を判断している人だと捉えられてしまいます。」

-安積さんの著書にもたびたび登場するパーティーシーンでの装いについては、どうでしょうか?こちらも、エグゼクティブだけでなく、一般の人にも共通しそうな事例などをぜひ知りたいです。

「パーティーのタイプにもよるのですが、例えば、結婚式などで、(ゲスト側が)過度に着飾ってしてしまうケース。普段は控えめな装いなのに、パーティーになると、あれもこれも取り入れて、過度に自分を飾り立ててしまう人や、デザインの力ですごく華やかにしようと意気込み過ぎている人は、今一度自分の装いを見直す余地がありそうですね。」

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せっかくのパーティーなのだから、ランウェイを歩くモデルたちのように華やかに・・・と思ってしまうのは、装いを見直す“要注意”のサイン。

ー気合を入れて飾り立てることや、デザインの力をかりて派手に着飾ることは、何故に、“装いを見直す必要がある”と思われるのでしょうか?

「デザインに負けない個性があれば、それは大変良いと思います。それは、ある種の自己表現でもありますので。しかし、忘れないで頂きたいのは、そこに、その人なりの哲学や価値観も推し量られている、ということです。

無理に着飾っている人ほど、なぜそれを着ているのか?と尋ねられた際に、『素敵だから・・・』『人と違うから良いと思って』という答えが返ってきたりします。つまり、そこには深い意味やその人なりの哲学はなく、在るのは“表層的かつ安易な想いで装いを選んでいる”という価値観。そうすると、ご本人がどんなに豊かな内面をお持ちでも、“その程度の価値観や考えなのね”と見なされてしまうので、非常に残念ですよね。
 
あとは、全身に複数のブランドをまとって、高級ブランド品のちゃんぽん状態になってしまっている方なども、そこから何を伝えたいのか相手は全く分からず、安易な考えで洋服を選んでいるという印象を抱かれやすいですね。」

ー先程のブランドの話にも精通しますが、装いを通しての外見と内面のバランス、その人なりの哲学や価値観が問われているわけですね。

好感を持たれる装いが知りたい!

ーでは、笑われてしまう装いとは反対に、好感を持たれる装いとは?

「大切に洋服を着ていることですね。 例えば、高級ブランドではなくても、お爺様から受け継いだ素敵なネクタイを、大切に身につけていらっしゃる方とか。あとは、お父様から譲り受けた革靴を、ご本人も丁寧に手入れをされ、足元から深い趣きを感じさせるような装いをされている方も尊敬されますよね。

ーつまり、高価な何かを着ているからと言って好感を持たれるわけではなく、洋服や物をどのように扱っているかがポイントになるのですね?

「そうですね。服や物との接し方からは、その方の内面を察することができます。例えば、想いのこもったものを引き継ぎ、大切に磨き上げている方は、ビジネスにおいても、物事の本質と向き合い、過度な投資をせずに、じっくりと物事を見極められる安心感のあるビジネスパーソン、というメッセージに捉える人もいます。」

ーそういうところ(物の扱い方など)でも、人間性を見られているのですね。

「はい、その人の全てがそれで判断されるわけではありませんが、その人を表す一つの記号として捉えられることもある、ということですね。」

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「大切に靴をはいている人と、流行を追いかけて次々と新しい靴を買う人、あなたはどちらとビジネスがしたいですか?」と安積さんは問う。

着物と一緒に「装いの哲学」も脱ぎ捨ててしまった日本人

-表面的で安易な価値観から洋服選びをしている日本人が多いという現状は、他人事ではありませんが、日本の着物の装いには元来、季節感やTPOに応じて生地素材やデザイン、小物を選ぶ文化や哲学が存在していたはずなのに、なぜ、現在このような状態にあるのでしょうか?

「日本も元々、着物という装いを通して、そういう価値観や文化を持っていたのだと思います。日本の着物は、優雅な着こなしだけでなく、立ち居振る舞いも重んじられました。染色技術も進み、町民の文化が花開いた江戸時代には、日本人は、48色の茶色や100色のグレーの色味を見極めて、着物に取り入れる感性もありました。

洋服が入ってきたのは明治時代ですが、日本人から(洋服の)装いの哲学が抜け落ちてしまったのは、その後の歴史的な流れも大きく関係していると考えています。」

ー日本人から装いの哲学が抜け落ちてしまうこととなった歴史的な流れ、と言いますと・・・?

「一般の人々が日常的に洋服を着るようになったのは戦後のことですが、政府からも洋装化を促され、多くの人は、戦後の物資が不足するなかで、『今、手元にある着物の切れ端などで、とにかく形だけ洋服っぽいものを作らないとならない』という状況にありました。 

当時は、既製服というものはなく、着衣は自分の手で作っていましたので、とりあえず、見様見真似で、形だけ洋服っぽく見えるものを取り入れたわけですが、その時に、洋服の本質的な部分やパーツの意味などを学んで、反映させる余裕がなかったのだと思います。

そして、そのまま現在に至り、今でも、形は洋服を着ていても、そこに在る意味合いや哲学を何もわからずにいる様子は、明治時代からほとんど変わりませんよね。」

ー洋服への本質的な理解が欠けたまま、何もアップデートされることなく、日本人は現在に至ってしまったのですね!

「そうなのです。洋服の本質的なことを知らないというだけでなく、また、一方では、知りたくても教えてもらうこともままならない、という現状もあります。

小・中学校の家庭科でも、ミシンの使い方や素材の種類は教えてもらっても、洋服の歴史やひとつひとつのディテールの意味合い、なぜ私たちは洋服を着ているのかなど、本質的な部分を教わることは、ほぼありませんよね? 少なくとも、私の学生時代はそうでした。

でも考えてみてください。着物を着るためには、それぞれのパーツの名称や役割をしっかりと学び、着付けの方法を学ばなければ、我流ではけっして美しく着ることができません。洋服だって同じなのです。服を纏うということは、その服が生まれた国の文化や歴史を纏うということなのです。

明治以前のように、日本の人々が着物に戻るということはもう無いと思いますので、各々が洋服と向き合っていく必要があると、私は考えます。」

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日本では洋服のいろはや本質について学ぶ機会がほぼ無いとしながらも、「国際化が加速する現在において、洋服について学ぶことは避けられなくなってきている」と安積さんは伝える。

ーつまり、装いの表面的な部分に終始せず、洋服と向き合い、その本質的な部分も併せて取り入れることが必要なのですね。

「そうですね。長い人生、毎日、洋服を着るわけですが、ひとつひとつのことを分かった上で洋服を着るのか、『とりあえず、かっこいいし、最新だし』と思って着るのかでは、日々の生活の丁寧さや、物に対する見方感じ方など、価値観が変わってくると思います。」

さて、今回のお話から見えてきたのは、洋服の表面的なことに主軸を置いて、本質に目を向けることから離れてしまった私たちの姿でした。次回は、装いから話題を広げて、立ち居振る舞いや仕草についてお届けします。日本特有のあの仕草が、海外の人から顰蹙を買ったり、誤解を招いていたりするかもしれませんよ!
 
安積陽子 ASAKA YOKO

●国際ボディランゲージ協会代表理事
●IRC JAPAN代表

アメリカ合衆国シカゴに生まれる。ニューヨーク州立大学イメージコンサルティング学科を卒業後、アメリカの政治・経済・外交の中枢機能が集中するワシントンD.C.で、大統領補佐らを同窓に非言語コミュニケーションを学ぶ。そこで、世界のエリートたちが政治、経済、ビジネスのあらゆる場面で非言語コミュニケーションを駆使している事実に遭遇。2005年からニューヨークのImage Resource Center of New York 社で、エグゼクティブや政治家、女優、モデル、起業家を対象に自己演出術のトレーニングを開始。2009年に帰国し、Image Resource Center of New Yorkの日本校代表に就任。2016年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立。理念は「表情や姿勢、仕草から相手の心理を正しく理解し、人種、性別、性格を問わず、誰とでも魅力的なコミュニケーションがとれる人材の育成」。非言語コミュニケーションのセミナー、研修、コンサルティング等を行う。

《著書》「NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草」

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[Interview photo by MASASHI YONEDA]
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「海外で笑われないための装い、洋服選び|安積陽子氏インタビュー<1>」もぜひチェックしてくださいね。

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