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経済人もオリパラ支援に本腰 車いすバスケの“日常”を体験

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早いもので2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで2年を切った。政府や東京都をはじめ関係者の熱気は高まるばかりだが、もう2年されどまだ2年の余裕を持って、いまこそ“オリ”に“パラ”が続く意味を落ちついて考えたい。パラリンピックにこそオリンピックの精神が脈打っているからだ。

7月中旬の神奈川県藤沢市の市立明治中学校。まだ十分明るい夕暮れどき、大きなバッグを小さな体に背負った部活帰りの生徒たちが「さよなら」と元気よくあいさつして続々と校門を通りすぎてゆく。そんな生徒たちとちょうど入れ替わるように車いすを積んだ乗用車が次々と校門をくぐり体育館前に止まる。

降りてきたのは肩から二の腕の筋肉が隆起した車いすバスケの選手たち。女子も数人いる。パラ神奈川スポーツクラブ(中嶋泰生代表)の週2回の練習が始まるところだ。

「スポーツをすることは人権の一つである。すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない」

オリンピック憲章はこのように「スポーツする権利」を「人権」と宣言する。世界最高峰の障害者スポーツ大会・パラリンピックは、この“オリンピック精神”の紛れもない発現であり、オリとパラの間にあるのは単なる開催時期の結び付きではない。パラはオリの理念が花開く場所だ。

もちろん、パラ出場を目指す選手や関係者の日ごろの活動を取り巻く環境にこの精神が根付いていなければ本番で満開の花が咲くことはない。スポットライトの当たらない日々に、いかに水をやり肥やしをまいて豊かな「土壌」を作るか、障害者スポーツを支えるいわゆる「民度」が問われている。

この日、冷房のない“蒸し風呂状態”の体育館で始まったパラ神奈川スポーツクラブの練習は人目に触れないそんな地味な日常の一コマだ。

練習が始まると、館内にはついさっきまで響いていた子供たちの元気な声と打って変わり、車いすの車輪が床にこすれる音やバスケットボールのバウンド音がこだまする。車輪を巧みに操りコート狭しと動き回る十数人の選手たちの息遣いもしだいに荒く大きくなる。試合形式の練習ではゴール付近で激しく車いす同士がぶつかり合い、耳をつんざく金属音が館内に響き渡る。

大型扇風機2台でコートに風を送るが、焼け石に水。大粒の汗が選手の額からこぼれ落ちる。コートの外で選手の動きを見詰める健常者のマネージャー小野梢さん(32)は「汗の排出機能が十分でない人もいるので、目が離せません」と気を配る。選手が練習に集中できる環境を周囲が常に支えている。1973年のチーム発足以来、資金面はもちろん練習場の確保にさえ苦労してきたが、選手とスタッフが心を1つにすることで神奈川を代表する強豪チームを作り上げてきた。

もう1人コートの外で選手たちの一挙手一投足に目を凝らしている男性がいる。白いポロシャツに黒のスラックス姿。が、マネージャーでもヘッドコーチでもない。車いすバスケの練習をこの目で見たいと自ら体育館に足を運んだJXTGエネルギー取締役兼常務執行役員の中原俊也さん(57)だ。

JXTGは東京オリンピック・パラリンピックのゴールドパートナーで中原さんはオリパラの担当役員。日本を代表する企業の多くがオリパラを支援していることは周知の事実だが、企業の役員個人が、試合ではなく、練習会場まで足を運ぶことはそれほど多くないはずだ。

経済界のリーダーの1人が、花ばかりでなくその「土壌」にも目を向け始めたことはオリンピックが目指す目的の1つ「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会」、いわゆる“共生社会”に向けての力強い第一歩になることは間違いない。

中原さんは「試合だけでなく練習も見るべきだね。選手の(車いすバスケにかける)熱い思いをじかに知ることができるよ。選手の日ごろの真剣な姿を見ることができ、彼ら彼女らをしっかり応援しなければならないという気持ちがさらに強まった」と流れる汗を拭いつつ話す。

車いすバスケのシュートを体験するJXTGエネルギー取締役の中原さん(左)

練習前には選手の手ほどきで、車いすに乗ってシュートしたり、ドリブルするなど車いすバスケを体験。「想像以上の難しさ。ほとんど歯が立たなかった」と苦笑い。「選手同士が接触してケガするんじゃないかと心配になるくらい激しい練習だった」と眼の前で展開される車いすバスケの迫力に圧倒された。

中原さんと言葉を交わした股関節障害のある西村元樹選手(27)は「まだ独身だが家庭を持って、自分が車いすバスケで活躍している姿を子どもに見せたい。それまでがんばる」と意気込みを語ったという。この西村選手にとって2020年は終わりではない。困難を乗り越える勇気と強い意思を将来の “新たな生命”に吹き込もうとする決意がみなぎっている。

中原さんも西村選手と同じ思いを共有する。「2020はある意味通過点と思っている。パラリンピックの“レガシー”を強く意識し、将来に生かしていくことが大事」と語る。早速有言実行とばかりに、まずはこの日の見学の“成果”を中原さんも所属する「オリンピック・パラリンピック等経済界協議会」(経団連・商工会議所・経済同友会らで設立)の経済リーダーの仲間たちに「練習も見て」と勧めていくつもりだ。