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復興五輪の“成果”に期待 福島で選手と楽しむオリパライベント

東京パラリンピックでの活躍を誓う車いすテニスの高室冴綺選手(左)、船水梓緒里選手。2人の背後には8年前の東日本大震災で押し寄せた津波の水位を示す青いプレートが掲げられている(2019年3月24日、福島県いわき市のイオンモールいわき小名浜店前のアクアマリンパークで)。
東京パラリンピックでの活躍を誓う車いすテニスの高室冴綺選手(左)、船水梓緒里選手。2人の背後には8年前の東日本大震災で押し寄せた津波の水位を示す青いプレートが掲げられている(2019年3月24日、福島県いわき市のイオンモールいわき小名浜店前のアクアマリンパークで)。

 東京電力第1原発から南に直線でおよそ50~60km。福島県いわき市の小名浜港が眼前に広がる。

 一帯は、水族館のアクアマリンふくしまや、津波時を想定して1階を駐車スペースとした“防災仕様”の巨大ショッピングセンター「イオンモールいわき小名浜店」が公園や広場を挟んで建ち並び、市民の憩いの場となっている。

 3月24日は、東京五輪・パラリンピックの気運を盛り上げる「東京2020レッツ55ウイズ福島県」(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会主催、福島県共催)が開かれ、親子連れなど大勢の市民が、オリパラでの活躍が期待される選手の手ほどきを受けながら、多様なオリパラ種目に挑戦するなどして楽しんだ。

 全国を“巡回”する「東京2020レッツ55」イベントが東京以外で開催されるのは今回の福島県が初めて。

 2020年3月26日の東京五輪聖火リレーの出発地も小名浜港から北におよそ35kmの福島県内のJヴィレッジ(福島県楢葉町・広野町)に決定している。

 東日本大震災からの復興を目指す福島県から「復興五輪」の本格的PRが始まった。

 イオンモールいわき小名浜店内のステージで開かれたオープニングセレモニーには元プロバスケットボール選手・萩原美樹子さん(1996年アトランタ五輪出場)や12年ロンドン五輪体操に兄妹で出場した田中和仁さん、田中理恵さん、東京五輪でメダルを目指す自転車競技の中井飛馬さん、東京パラリンピックでの活躍が期待される卓球の齊藤元希選手らが顔をそろえ「いろんなスポーツを体験して楽しんでください」と呼び掛けた。

スポーツ体験を呼び掛ける萩原さんたち。
スポーツ体験を呼び掛ける萩原さんたち。

 ステージに登壇した地元福島県出身の萩原さんは「復興は道半ば。競技に人生を賭けたアスリートのパワフルなプレーと強い気持ちを東京五輪・パラリンピックで感じて、少しでも元気になっていただけたら」とあいさつした。

 会場には車いすテニスやパラ卓球、自転車競技、スポーツクライミング、野球・ソフトボール、ラグビーなどを、年齢やレベルに応じて気軽に楽しめるブースが並ぶ。小さな子どもから高齢者まで幅広い世代が五輪種目の数々を楽しんだ。

子どもに車いすテニスを教える高室冴綺選手(左)。
子どもに車いすテニスを教える高室冴綺選手(左)。

 車いすの動かし方からラケットの握り方、ボールの撃ち方まで丁寧に車いすテニスの初歩を教えていたのは国内ランキング4位(3月14日時点)の高室冴綺選手、同5位の船水梓緒里選手。両選手は「多くの人に車いすテニスを知っていただき、うれしかった」と語り、東京パラリンピックに関し、高室選手は「メダルを取りたい」、船水選手は「出場できるよう頑張りたい」とそれぞれ目標を述べた。

 昨年のアジア選手権男子ジュニアで優勝し、東京五輪では金メダルを狙う自転車競技(BMX)の中井飛馬選手は「BMXレースをもっと多くの人に広めたいと思っているので今日は良い機会になった」と来場者とのふれあいを楽しんでいた。

ジャンプ演技を披露する中井飛馬選手。
ジャンプ演技を披露する中井飛馬選手。

 福島県内では、東京五輪種目のうち野球とソフトボールが行われる。会場は福島あづま球場(福島市)だ。両種目の決勝は横浜市で行われる。

 福島県と横浜市は野球・ソフトの競技会場つながりで、子どもたちの野球・ソフト交流が始まり、昨年は福島の子どもたちが横浜市を訪れ、横浜の子どもたちと野球の試合をするなどして交流した。今年10月には横浜の子どもたちが福島あづま球場を訪れ、ソフトボールの試合をする予定だ。

 野球・ソフトのブースでは横浜市オリンピック・パラリンピック推進課担当課長の田中礼子さんらが、横浜と福島の野球・ソフト交流をパネルなどで紹介。田中さんは「福島の方に野球・ソフトの決勝が行われる横浜市にぜひ足をお運びいただきたい」と話す。

パネルを使って横浜と福島の野球・ソフト交流を紹介する横浜市オリンピック・パラリンピック推進課担当課長の田中礼子さん。
パネルを使って横浜と福島の野球・ソフト交流を紹介する横浜市オリンピック・パラリンピック推進課担当課長の田中礼子さん。

 野球・ソフトのブースには、記念写真撮影用の表彰台やバッティング姿を演出するパネルがあり、萩原美樹子さんや田中和仁さん、田中理恵さんの兄妹、NHK2020応援ソング「パプリカ」を歌う5人組の小学学生ユニット「Foorin」らも訪れ撮影を楽しんでいた。

表彰台の上で記念撮影する萩原美樹子さん(右端)や田中和仁さん、田中理恵さん兄妹。
表彰台の上で記念撮影する萩原美樹子さん(右端)や田中和仁さん、田中理恵さん兄妹。
記念撮影するFoorinのメンバー。
記念撮影するFoorinのメンバー。
【バッティングパネル】の前で撮影する田中理恵さん。
【バッティングパネル】の前で撮影する田中理恵さん。

 会場には東日本大震災時の津波の水位を示すプレートがあり、歴史の風化を防ぐ役割を果たしている。イオンモールいわき小名浜店内の食品売場では、福島県産農産物の風評被害払しょくと普及を目的にした「ふくしま。GAPチャレンジクイズ」(福島県主催)が行われ、品質管理の認証「GAP」を受けた福島県産農産物が販売されていた。

 GAPは「農業生産工程管理」を意味する英語の頭文字を取った言葉。東京オリパラでは「持続可能性に配慮した農産物」を使用基準に掲げる。

 持続可能性に配慮した農産物とは具体的には、有機栽培で生産された農産物や障害者が積極的に関わって生産された農産物、GAPの認証を受けて生産された農産物などを指す。

 福島県は福島県産農産物の原発事故による風評被害を払しょくするためGAP認証の取得を農家に呼び掛けている。今年2月時点の認証数は135点。2020年には361点の認証を目指している。福島県環境保全農業課主査の野田智美さんは「東京五輪を好機と捉え、風評被害の払しょくに努めたい」と話す。

GAP認証を受けた福島県産農産物が並ぶ売り場。
GAP認証を受けた福島県産農産物が並ぶ売り場。

 福島県オリンピック・パラリンピック推進室主幹の鈴木淳さんは「復興した面を世界の皆さんに見てもらい、さらなる福島の復興につなげていきたい」と意気込む。

 復興に取り組むこのような地元の熱意に応え、“復興五輪”を単なる掛け声に終わらせない“実のある取り組み”が五輪関係者に求められている。