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【コラム】暗雲垂れ込む東京五輪 ホスト側に迫る決断の時期

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 選抜高校野球大会や世界フィギュアスケート選手権と個人的にも楽しみにしていたスポーツイベントが相次いで中止になった。米プロバスケットボールNBAはシーズンを中断し、日本のプロ野球に続いて米大リーグMLBも開幕が延期となった。新型コロナウイルスの感染拡大が世界各地に広まり、世界保健機関(WHO)は「パンデミック(世界的大流行)」を表明。米国のトランプ大統領は国家非常事態を宣言した。先の見えない危機的な状況で、7月24日開幕の東京五輪にも急速に暗雲が垂れ込めてきた。

 2月末に国際オリンピック委員会(IOC)の長老委員、ディック・パウンド氏が「開催可否の判断期限は5月下旬」と発言したが、トーマス・バッハ会長は3月上旬のIOC理事会でも開催への自信を示していた。ところが、ここへきてドイツの公共放送ARDとのインタビューで、開催の是非に関し「WHOの助言に従う」と方向転換した。パンデミック表明という厳しい事態にはさすがに抗しきれなかったようだ。

 予定通りの五輪開催を多くの人が願っているが、深刻化した現状を踏まえれば東京五輪・パラリンピック組織委員会や東京都が現実的な対応にかじを切る時期がきたといえる。同組織委の高橋治之理事(元電通専務)は米紙ウォールストリート・ジャーナルに「今夏の開催が難しくなれば、最も現実的な選択肢は1、2年延期することだ」と述べ、共同通信の取材にも「現実を踏まえ、それなりに対応しないといけない。時間的にも(迫っているので)」と語った。観測気球的な意味合いがあったかもしれないが、組織委内の人が誰も口に出せないのでスポーツビジネスを知り尽くす同氏が個人的見解として発信したのだろう。

これに対する組織委の11日のコメントは「大会の延期や中止は一切検討していない。開幕に向けて安全で安心な大会準備を計画通り進めていく」と、これまでと同じ開催を強調するものだった。ドイツの放送局がバッハ発言を報じたのは12日。政府でも延期を視野に対応の検討に入ったとの新聞報道(14日付東京新聞)もあり、うかうかしていると昨秋のマラソン・競歩会場の札幌変更と同じように頭越しに判断されかねない。五輪を開催するホスト側がイニシアチブを取りたい。決断の時期は迫っている。

 トランプ米大統領の開催延期への言及には、五輪の最大スポンサーである米テレビの意向も見え隠れする。米NBC側は14年ソチ五輪から32年五輪(開催地未定)までの10大会に120億3000万ドル(約1兆3000億円)もの放映権料を支払う。発言力は絶大である。それでもIOCがテレビマネーの言いなりになるだけで開催地のことを置き去りにすれば、これから五輪開催を目指す都市からそっぽを向かれる。また「アスリートをオリンピックムーブメントの中心に置く」とうたっているのなら、中止や延期も想定される状況で選手がどう考え、何を望むのか、その意見にしっかりと耳を傾けるべきだろう。

【筆者略歴】

 後藤英文(ごとう・ひでふみ) スポーツジャーナリスト。共同通信では初代スポーツ専門特派員としてニューヨークで勤務。MLBワールドシリーズやW杯サッカー、NFLスーパーボウルのほか夏冬の五輪などを取材。元びわこ成蹊スポーツ大学教授。