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パラ柔道レジェンドの葛藤と挑戦 日本での事前合宿描いたブラジルのドキュメンタリー映画が先行上映 パラ選手の姿から考える「共生への道」

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 今年夏に開かれた東京2020パラリンピックに備え、2017年から3年連続で青森県弘前市で合宿を行った柔道のブラジル代表チーム。そのチームとレジェンド選手を追ったブラジルのドキュメンタリー映画『テノリオと柔道の夢』が完成、弘前市の主催で10月8日から10日までの3日間、Youtubeで先行公開する。柔道発祥の地・日本での合宿や日常を通じ、視覚障がいを持つ選手たちの本音や葛藤なども描写。東京大会を機に盛り上がった共生社会化への機運を後押しする一本となっている。

障害者の戸惑いと苦悩映像に

 この映画はチームが2018年7月に来日した時の記録。スポーツをテーマにしているが、普段の生活も柔道の練習も思うようにならない視覚障がい者の戸惑いや日々の苦悩を、淡々とした映像で描き出している。監督は英国で学び国際コンクールの受賞歴もある気鋭のエドゥアルド・ハンター。成田空港の来日から始まり、筑波大での事前合宿、弘前市へ移動しての弘前大との合同練習、そして日本代表チームとの交流稽古を追っている。弘前市は今から100年ほど前にブラジルに渡り柔道を広めた前田光世の出身地という縁もあり、ブラジルチームのホストタウンとなって合宿を受け入れてきた。

 主人公のアントニオ・テノリオは全盲の選手。1996年のアトランタ・パラリンピックから2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京まで4大会連続で

 金メダルを獲得し、2012年ロンドンは銅メダル、2016年リオデジャネイロは銀メダルに輝いた。撮影当時は47歳、パラ柔道の世界ではレジェンドと呼ばれる名選手だ。とはいえ少しでも他人の手を借りずに生活するために、神経をすり減らす日々を送っている。筑波では同僚と一緒に町のファミリーレストランに入り、みそ汁をすすって白いご飯を口にした。合宿の5人一部屋ではストレスが募り、廊下で一人過ごし気を鎮める。

東京2020パラリンピック大会のブラジル代表チーム(後列左から2人目がテノリオ選手)。
東京2020パラリンピック大会のブラジル代表チーム(後列左から2人目がテノリオ選手)。

来日目的は真剣な稽古

 弘前に移動し、リクエストに応じた豆のスープの提供が選手たちを和ませる。練習にも身が入り青森県の選手たちとの乱取りでは表情が一変。テノリオは「このために俺たちは日本に来たんだ」と後輩につぶやく。日本代表との交流稽古は真剣勝負だ。2012年のロンドン大会で敗れている北薗新光は、鬼気迫る表情でテノリオと組み合う。その迫力に周囲もただ見守るだけ。「負けたくない」。彼らがアスリートであることを想起させる。

 受け入れてきた弘前大の高橋俊哉監督は「僕たちはサービスで彼らの相手をしているのではなく、自分が強くなるために稽古をしている。彼らの表情が精気に満ちているとしたら、彼らも同じような思いを持っているからだと思う。それに市役所をはじめ、弘前市民のホスピタリティーのたまものなのも間違いない」という。同時に、人間観察に優れた映画の内容に「テノリオ選手の、人は一人の時間が必要だという思いは、普段多くの場面で介助が必要な彼らだからこそ。健常者では想像もできない些細なことでストレスを感じているのだろう」と感想を話した。

柔軟な日本人に敬意

 1時間16分の本編には柔道だけでなく、ねぷたまつりや弘前城の五重塔の光景も盛り込まれ、ストーリー展開の中でアクセントになっている。エンディングは工藤静香のヒット曲「嵐の素顔」のアップテンポなリズムに合わせ、選手たちが楽しそうに練習する姿。伝統の形を守りつつ、新しい工夫も入れる。日本人の柔軟な思考に、エドゥアルド監督は敬意を表している。

 北京パラリンピック柔道90キロ級代表で、2018年の弘前市のイベントでテノリオとも対談した初瀬雄輔さんは「テノリオは全盲だが技の切れがすごい選手だった。海外のパラ選手が競技にどう向かい合い、鍛えているのかということもぜひ見てほしい」と話した。

映画「テノリオと柔道の夢」 10月8日から10日の3日間、Youtubeで視聴可能(無料)。
映画「テノリオと柔道の夢」
10月8日から10日の3日間、Youtubeで視聴可能(無料)。