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【映画コラム】9月の公開映画から

「バックルームズ」(9月4日公開)★★★

出口のない迷宮が生む恐怖

 “あるはずのない隙間”から、黄色い壁に囲まれ蛍光灯に照らされた迷宮のような空間へ迷い込んだ男(キウェテル・イジョフォー)が、出口を求めてさまよう。インターネット発の都市伝説「バックルームズ」を基にした不条理スリラー。
 本作の原点は、当時16歳のケイン・パーソンズがユーチューブで発表した短編映像。彼は19歳で本作を監督し、ユーチューブ発のクリエーターが映画界へ進出する近年の流れを象徴する存在となった。舞台は、人がいるはずなのに誰もいない、日常と非日常の境界にある「リミナルスペース」。黄色い壁、無機質な光、同じ景色の反復が、現実感を少しずつ失わせていく。舞台が1990年であることも効果的だ。スマートフォンもネット検索もない時代、男はビデオカメラに自分を記録しながら、出口を探すしかない。現実の裏側なのか、彼自身の心象風景なのか。解釈の余地を残しながら、「永遠にここから出られないのではないか」という閉塞感と恐怖を観客に抱かせる。

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「白鳥とコウモリ」(4日公開)★★★

社会派ミステリーの可能性

 善良な弁護士の白石が刺殺され、倉木(三浦友和)が犯行を自供する。だが、倉木の息子・和真(松村北斗)と白石の娘・美令(今田美桜)は、それぞれの父親の言動に抱いた違和感から事件を調べ始める。東野圭吾の同名ミステリー小説を岸善幸監督が映画化した。
 東野作品には、ある場所や過去の罪が現在の事件につながり、意外な人間像が浮かび上がるという点で、松本清張を思わせる構造がある。ただし、清張が人間の業を突き放して描くのに対し、東野作品では真相の背後にある家族愛や人情が前面に出る。本作もその延長線上にある。タイトルが示すように、単純に白か黒かでは割り切れない人間の深い闇を描き、冤罪という重いテーマにも踏み込んでいるだけに、もう少し硬質な社会派ミステリーとしての掘り下げがあってもよかったのではないかと思う。柄本佑が演じる五代刑事の、一歩引いて人間を見つめる距離感が印象に残るだけに、なおさら惜しい気がした。

©2026「白鳥とコウモリ」製作委員会

「オデュッセイア」(11日公開)★★★

クリストファー・ノーランの力業

 トロイア戦争を終えたイタケの王オデュッセウス(マット・デイモン)は、妻(アン・ハサウェイ)と息子(トム・ホランド)が待つ故郷を目指す。だが、一つ目の巨人や魔女、海の怪物など、次々と試練が立ちはだかり、帰還まで10年もの歳月を費やすことになる。ホメロスの同名叙事詩を、クリストファー・ノーラン監督が映画化した。
 全編をIMAXフィルムカメラで撮影するなど、映像表現への執念は並々ならぬものがある。だが、ノーランが描くのは英雄の冒険だけではない。時間を行き来する構成や、戦争を勝利に導く一方、その過程で犯した罪を背負う男という設定には、前作「オッペンハイマー」との共通性も感じられる。巨大な怪物や荒れ狂う海のスペクタクルは圧倒的だが、その根底にあるのは、戦争を終えた男が失われた時間を取り戻し、家族のもとへ帰ろうとする物語。神話を巨大な映像世界としてよみがえらせながら、人間ドラマとしても成立させたノーランの力業に注目だ。

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