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2人の「恵子」による 「約束」と「晩秋」 【平井久志✕リアルワールド】

 女優の岸恵子さんが8月7日に亡くなった。93歳だった。国際的な女優であり、エッセイストとしても活躍し、知的で洗練されたイメージの方だった。亡くなった後、岸さんと萩原健一さんが主演した映画「約束」(1972年製作)をもう一度見た。

 この映画は歌手だった萩原さんの俳優としての出世作となった。独特な映像美で知られる斎藤耕一監督の作品だ。

 あらすじは、刑務所に収監中の女性模範囚が女性監視官の付き添いで、母親の墓参に行く列車の中で、男と恋に落ちるというものだ。実は、男も傷害強盗犯として逃亡中で、2人は女の刑期が満了する2年後に会うことを約束し、女は刑務所に戻る。女は2年後に約束の場所に行くが、男は逮捕され、現れることはなかった。

 この映画は、韓国で66年に製作された映画「晩秋」のリメイクだった。

 「晩秋」は韓国では何度も映画化されている。「約束」が製作された後の82年に、金洙容監督、金志軒脚本で韓国で3回目のリメイクが行われた。主演は金恵子さん、鄭東煥さんの2人だ。2人とも映画は初出演だったが、テレビでは大人気の俳優だった。金恵子さんは、この「晩秋」で第2回マニラ国際映画祭の女優主演賞を受賞した。授賞式では当時大統領夫人だったイメルダ氏からトロフィーをもらった。

 金恵子さんは韓国では知らない人のいない国民的な女優だ。80年10月21日から2002年12月29日まで1088話にわたり放送された韓国の最長寿連続ドラマ「田園日記」で、農村の会長夫人を演じ、絶大な人気を得ていた。

 僕は1983年秋から1年間、韓国に留学した。「晩秋」公開の2年後ぐらいに、偶然、金恵子さんと知り合った。息子さんを含めた家族と、今も交流を続けている。金恵子さんは41年10月生まれで、今年85歳。岸恵子さんより9歳年下だ。

 日韓を代表する「恵子」という名前を持った女優が、同じ映画の主演を務めるというのも奇しき因縁だと思った。さらに「約束」の女囚の主人公の名前は「松宮螢子」だ。映画中の名前も同じ「けいこ」だった。斎藤監督が「螢」のようなイメージを主人公に与えたかったのだろうかと思ったりもした。

 僕は、金恵子さんに初めて会った時に「岸恵子さんの『約束』を見ましたか?」と尋ねると「もちろん、見ました。同じ『ヘジャ(恵子)』だしね。同じストーリーだけど、日本と韓国の違いがあって面白かった」とおっしゃった。

 「約束」は福井県敦賀市の五幡海岸で撮影が行われ、「晩秋」は江原道の束草で行われた。僕の印象では、岸さんや斎藤監督のイメージもあってか、「約束」の映像はスマートな感じを受けたが、「晩秋」はかつての韓国らしいザラザラした感触があった。確かに、どちらが優れているかではなく、かつての日本と韓国の、風景や感触の違いを感じさせた。

 いつか、2人の「恵子」さんの対談を企画できないかと思っていたが、岸さんはパリ在住であまりに遠かった。僕は岸さんが晩年、日本にいらっしゃったことを知らなかった。返す返すも残念だ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.40からの転載】

ひらい・ひさし 共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。