10月11日、アプリ通話の着信音が鳴った。ネパールに住む友人からだ。また土石流が発生したのだろうか。
胸騒ぎは的中した。送られてきた動画には、灰色の濁流が荒れ狂う様子が映っていた。場所はネパール中部ゴルカ郡、ヒマラヤ山脈の麓を流れるブディガンダキ川流域。8月下旬に岩石と氷の崩落で大惨事が発生した「ギロン・ラスワ回廊」から、50〜60キロほど西だという。少なくとも5人が行方不明となり、住宅や橋、水力発電所などが被害を受けた。
ヒマラヤ地域の環境を監視する政府間機関「国際総合山岳開発センター(ICIMOD)」によると、8月の大惨事発生前の48日間に、最大40センチの地盤変動が衛星レーダーで検出されていたという。「衛星監視の活用でリスクが高い斜面を特定し、より詳細な観測が可能になる」が、既存の警戒システムでは突発的な山体崩壊などを事前に検知することは困難だという。ラスワ回廊で2025年7月に起きた氷河湖決壊による洪水は突然だった。10月の土石流に関しては、よく分かっていない。
未曽有の自然災害に直面するネパールの温室効果ガス排出量は、世界全体の0・1%未満に過ぎない。シャハ・ネパール首相は9月の国連総会で、「ヒマラヤの津波」は世界への警告であると訴え、「政治指導者である私たちが行動を怠ってきた」と述べながら、大量排出国の責任を問うた。
世界が一丸となって解決に動く状況には程遠い。それどころか、温室効果ガスを大量に排出する軍事活動は拡大の一途をたどっている。大国が関与する戦争は周辺国の軍備増強を招いているが、軍事活動でどれほどのCO2が排出されているかは正確に公表されていない。地球全体が破滅への連鎖に巻き込まれているかのようだ。
だが新たな動きもある。相次ぐ災害を経て「気候変動は人権問題」との考え方が世界的な共通認識となりつつある。国際司法裁判所(ICJ)や欧州人権裁判所などは2024年から2025年にかけ、政府が気候変動対策を怠ることは人権侵害や国際法違反に当たるとの勧告を出した。「健康で持続可能な環境で暮らす権利」や「将来世代の権利」を守るため、司法が対策を促す推進力となり始めている。
国連によると、政府や企業、金融機関などを被告とした気候訴訟は、世界で3千件以上。日本でも2年前、10代から20代の若者16人が主要電力会社10社を相手取って民事訴訟を起こし、昨年には「人権侵害」を理由に政府へ損害賠償を求める訴訟も提起された。
私たちは間に合うのだろうか。3年前に彼の地で記念写真を撮った子どもたちは無事だろうか。ため息をついていたら、ネパールの被災地で奔走する建築家の中原一博さんから便りが届いた。家族を失った子どもや妊婦、人身売買被害者やHIV陽性の子どもたちまでを対象に被災者支援活動を始めたという。中原さんの学生時代の友人であるシンガー・ソングライター、浜田省吾氏の基金も、活動を支えている。
ただ悲観しているだけでは始まらない。そう思い直した。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.41からの転載】
舟越美夏(ふなこし・みか)1989年上智大学ロシア語学科卒。元共同通信社記者。アジアや旧ソ連、アフリカ、中東などを舞台に、紛争の犠牲者のほか、加害者や傍観者にも焦点を当てた記事を書いている。







