『渇水』(6月2日公開)
前橋市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)は、水道料金を滞納している家庭や店舗を回り、料金の徴収および水道を停止する「停水執行」を担当している。
日照り続きのある夏、市内に給水制限が発令される中、妻子との別居生活が続き、心の渇きを感じる岩切。そんな中、仕事中に育児放棄された幼い姉妹と出会った彼は、その姉妹に救いの手を差し伸べようとするが…。
河林満の同名小説を原作に、心の渇きにもがく水道局職員の男が幼い姉妹との交流を通して生きる希望を取り戻していく姿を描く。白石和彌監督が初プロデュースし、岩井俊二監督作や宮藤官九郎監督作で助監督を務めてきた高橋正弥が監督デビューを飾った。
見どころは、平凡で覇気のない岩切を演じる生田の意外性を感じさせる名演と、岩切を中心に、職場の後輩・木田(磯村勇斗好演)、幼い姉妹(山崎七海、柚穂)、妻(尾野真千子)、そして水道を停められる人々の点描を絡めた人間模様の妙。その中に、水不足、貧困、格差、ネグレクトといった問題を描き込んでいる。
中山晋平作曲の童謡「シャボン玉」(作詞・野口雨情)と「あめふり」(作詞・北原白秋)の挿入、「太陽も空気もただなのに、何で水は…」というせりふも印象的だが、いろいろな意味で“水”にこだわった映画。近々公開の前田哲監督の『水は海に向かって流れる』と対で見ても面白いかもしれない。
後半の展開は原作とは大きく違うという。ラストに訪れる“小さな奇跡”も含めて、高橋監督は“希望”を描きたかったのだろう。「レインメーカー(雨を降らせる人)」という言葉を思い出した。久しぶりに“小品佳作”を見た思いがした。
(田中雄二)