『怪物』(6月2日公開)
舞台は大きな湖のある郊外の町。主な登場人物は、息子を愛するシングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)、生徒思いの小学校教師・保利(永山瑛太)、そして少年たち(黒川想矢、柊木陽太)…。
それは、子ども同士のけんかやいじめに見えた。しかし、彼らと周囲の人々の食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大ごとになっていく。そしてある嵐の朝、子どもたちはこつぜんと姿を消す。
監督・是枝裕和、脚本・坂元裕二、音楽・坂本龍一。田中裕子、高畑充希、角田晃広、中村獅童など多彩なキャストが助演する。
この映画は、大別すると、同じ事象を、母親の早織、担任教師の保利、息子の湊という、三者の異なる視点、それぞれの言い分や考えから描くという、黒澤明の『羅生門』(50)を思わせるような映画的な手法を駆使している。映画を見ながら、登場人物に対する気持ちがどんどんと変化していき、物事は一面的に見てはいけないのだと思わされる。
つまり、一体何が起こっているのか、果たして真相はという一種の謎解きミステリー仕立てで引っ張りながら、本当の“怪物”とは何なのか、誰なのかというテーマを浮かび上がらせていくのだが、最後は明確な結論を出さずに観客に判断を委ねているので、見終わった後に、何かもやもやした感覚が残るのは否めない。
『万引き家族』(18)について、「是枝裕和の映画は、劇映画とドキュメンタリーのはざまで家族というテーマを淡々と描きながら、同時にちょっと鼻に付くような作為的なものも感じさせる。そして最後は明確な結論を出さずに観客に判断を委ねるという手法には、それを問題提起や、余韻とする見方もできようが、ある意味、ずるさを感じるところがある。それは、カンヌの常連であるダルデンヌ兄弟の諸作にも通じる点であり、だからこそ是枝映画はカンヌで受けがいいのかとも思う」と書いた。
坂元の脚本を得たこの映画からも同様のものを感じた。これは良くも悪くも是枝映画には一貫性があるということなのだろう。
なじみのある諏訪湖周辺でロケをしたということで、どのように撮ったのかという興味があったのだが、まるで別の町のように見え、つくづく“映画のマジック”を感じさせられた。そして坂本龍一の音楽が美しい。