X

【インタビュー】『メタモルフォーゼの縁側』芦田愛菜「宮本さんが『頼んだわよ』と声を掛けてくださってうれしかった」 宮本信子「愛菜さんは役にぴったり」幅広い層から人気の2人が10年ぶりの共演

 子役時代から第一線で活躍する俳優・芦田愛菜。そして『マルサの女』(87)から『キネマの神様』(21)まで、数々の名作に出演してきた名優・宮本信子。幅広い層から人気を集める2人が10年ぶりに共演した『メタモルフォーゼの縁側』が、6月17日から公開となる。人付き合いが苦手な17歳の女子高生・佐山うららと、夫に先立たれた75歳の老婦人・市野井雪、年の差58歳の2人がボーイズ・ラブ(BL)漫画をきっかけに友情を育んでいく温かな物語だ。公開を控えた2人が、撮影の舞台裏を振り返ってくれた。

芦田愛菜(左)と宮本信子 (C)エンタメOVO

-おばあちゃんと幼い孫を演じた『阪急電車 片道15分の奇跡』(11)以来、10年ぶりの共演はいかがでしたか。

芦田 今回ご一緒して、宮本さんが撮影初日に「これから頼んだわよ」と声を掛けてくださったのが、すごくうれしかったです。そんなふうに「ポン」と肩に手を置いてくださったので、緊張が一気にほぐれて、雪さんとうららの関係性も作りやすくなりました。おかげで、毎日撮影が楽しかったです。

-宮本さんの「頼んだわよ」という一言にはどんな思いがあったのでしょうか。

宮本 「一緒に楽しくやりましょうね」ということはもちろんですけど、「頼りにしていますよ」という感じでしたね。ほとんど2人のお芝居で進んでいくので。

-前回は俳優として「頼んだわよ」と声を掛けるような関係ではなかったですものね。

宮本 長生きしてよかったです(笑)。やっぱり、女優にはその年齢にならないとできない役がありますから。私も過去、節目節目でいいお役を頂いてきましたが、今もそんなふうに健康で仕事ができることが、本当にありがたいです。ですから、私にとってはこの年齢でぴったり合う役を演じられたことがとても大きいです。

-そうすると、お二人はうららと雪の関係性をスムーズに作っていけた感じでしょうか。

宮本 いけましたよね。

芦田 そうですね。でも、宮本さんが引っ張ってくださったので、私はついて行くだけでした。お芝居をするときいつも思っていることですけど、関係性を作り上げていくという意味では、私自身も、演じる役も、初めての経験で、同じなんですよね。だから、撮影を重ねる中で、私と宮本さんのお芝居の呼吸が徐々に合っていくのと同時に、うららと雪さんの関係も少しずつ作り上げられていったのかなと思います。

宮本 本当にその通りですね。だから、私は「うららが愛菜さんでよかったな」ってしみじみ思っています。役にぴったりで、これ以上のキャスティングはありませんから。

芦田 うれしいです。ありがとうございます。

-ここで改めて、最初に台本を読んだときの感想を聞かせてください。

芦田 「このお話、好きだな」と思いました。自分に自信がなく、いつも“猫背がち”なうららが、自分の好きなものを肯定し、優しく受け止めてくれる雪さんと出会ったことで生き生きとしていく。それが「私も、好きなものをもっと“好き”って言おう」とか「自分のことを認めてあげよう」と背中を押してくれる感じがあって。一コマ一コマ、本当に日常の何げない風景がすごく温かくて、雪さんがうららを包み込んでくれたように、作品自体が私たちを包み込んでくれるような印象でした。

宮本 忙しい世の中になって、殺伐とした世の中にもなって、でも人間は生きていくわけで。しかも、今は人との関係を作ることが難しくなっていますよね。そんな中で、孫とおばあちゃんという関係でもない年の離れた2人が仲よくなっていく。こんなにすがすがしく、いい関係を描いた映画は他にありませんし、とてもすてきですよね。

-2人を結び付けるものがBL漫画というのも新鮮ですよね。雪さんぐらいの年齢の方だと、知らないものに対して拒否反応を示すこともありそうですが、雪さんはそうではなく、とても柔軟ですし。

宮本 私、始めは知らなくて「BLって何ですか?」って聞きましたから(笑)。雪さんもそうでしたが、私の友だちもほとんど誰も知らなくて。でも、見てみたら絵もすてきで、違和感はなかったです。そういった意味では、たまたま手に取った一冊が、こんなふうに女子高生と知り合うきっかけになり、自分の世界も広がっていく。とてもいいお話だと思います。しかもそこで描かれているのは、BL漫画に限ったことではなく、自分の知らなかった世界と出会ったときにどうするか、という問題ですから。

-この映画は、第22回文化庁メディア芸術祭漫画部門新人賞など多数の賞に輝いた鶴谷香央理さんの同名コミックを原作に、『阪急電車 片道15分の奇跡』(11)と同じ岡田惠和さんが脚本を手掛けています。今回も岡田さんらしい、ささやかな日常を舞台にした温かな物語ですが、脚本に対する印象を聞かせてください。

芦田 どんなふうに2時間にまとめるんだろうと思っていたら、脚本には原作の好きな場面や登場人物たちの魅力がぎゅっと詰まっていて、すごくすてきだなと。映画オリジナルの場面もありますけど、岡田さんのすてきな言葉で紡がれているので、早く演じたいと思いました。

-宮本さんは、岡田さんの脚本ではNHKの連続テレビ小説「ひよっこ」(17)などにも出演していますね。

宮本 岡田さんの作品にはたくさん出演していますが、すごくいいせりふを書かれるので、岡田さんのホンは大好きです。本当にぴったりの言葉がくるので、それを言えるのは俳優としてすごくうれしく、幸せなことだと思っています。

-ところで、お二人は今回、音楽を担当した“T字路s”提供の主題歌「これさえあれば」もデュエットしています。エンドロールですてきな歌声が流れてきて、温かい気持ちになりました。

宮本 びっくりしましたね。主題歌って言われたときは。

芦田 そうですね。本当に(笑)。でも、うららと雪さんが歌っているという設定なのがいいなと思いました。映画が終わった後も、2人の関係性が続いている期待感があって。レコーディングのときは、たくさんの方がいる中で歌ったのですごく緊張しましたが、T字路sのお二人が温かい言葉を掛けてくださったおかげで、無事に歌い切ることができました。

宮本 私は60歳ぐらいからジャズを歌い始め、年に一回のライブをもう20年ぐらい続けているんです。でも、それとは違って、主題歌には作品を締めくくる責任がありますからね。本当に貴重な経験をさせていただきました。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会