カルチャー

【輪島だからこそ、できること】(上) 動き出す蔵、もう一度戻ってきた味

自慢のいしる造り再開、朝市の灯つなぐ <南谷良枝商店>

 かつて輪島朝市で店を出していた南谷良枝さんは今年7月、能登地方特産の魚醤「いしる」造りを再開した。当時仕込んでいた樽が全て地割れで壊れてしまった震災から、2年半あまり。「ほっとしました。やっと造れた」

 南谷さんは輪島市の家が、震災で大きな被害を受けた。今は金沢市内に支店を開いて生活の拠点を移し、娘の美侑さん(23)とともに全国への出張朝市に駆け回る日々が続く。

南谷良枝商店の南谷良枝さん(右)と娘の美侑さん

 いしる造りは鮮度が命。「いいサバ、きとるよ」。漁業関係者からの知らせが入った翌朝、輪島で加工施設に駆け付けた。「獲れたてを漬けるから、クリアで臭みがない出来になる」(良枝さん)。家族4人総出でまる一日かけ、400キロ以上のサバを塩で転がし、漬け込んだ。

 南谷さんの営む南谷良枝商店は初代が祖母、美侑さんで3代目になる。いしるは伝統の造り方を守り、仕込みから3年じっくり寝かせる。能登の他地域はイカやイワシのいしるが多いが、サバは輪島ならでは。「ばあちゃんは、イワシのいしるを造る時にも、コクを出すのに『サバちょっと入れれ』って。だから、サバ100%のいしるはコクやうまみ成分の塊なんです。今回のも、いいサバやったからおいしいものができると思う」

家族のこだわりや輪島への愛がつまった「母ちゃんの塩辛」(左)と、今年から生産が再開できたフグの昆布締め

 輪島港の水揚げ量は徐々に回復してきたが、戻り切っていない。震災後の地盤隆起で港の水深が浅くなり、漁業者が従来通り操業できないためだ。人口減少による人手不足とも闘いながら、本復旧へ向けた浚渫(しゅんせつ)や施設集約が懸命に進む。すぐそばで歴史を刻んできた輪島朝市も、大屋根を設けた一大施設によみがえらせる構想が発表されたものの、財源確保はこれからだ。

▽一押しは、母ちゃんの塩辛

 それでも、南谷さん親子の輪島のおいしいモノを作り届ける強い気持ちに変わりはない。フグの昆布締め、イワシのこんか漬――。「自分たちの商品が作れるようになってきた。去年よりおいしいものを届けられている気がしています」。そう話す美侑さんの一押し商品は、料理人だった祖父手製の塩辛を、祖母直伝のいしるをつかって母が再現した「母ちゃんの塩辛」。自慢のいしるも今年中にさらに2~3回、仕込みたい。おいしい魚が揚がるのを待ちながら、輪島朝市の灯を未来につなげる。

朝市に並ぶ海の幸をたくさん水揚げしてきた輪島港。本復旧へ向けた取り組みが懸命に進められている