まだ彼を失った衝撃は続いている。世界中のファンがもう一度その音楽を聴き、語り、その死を悼んでいる坂本龍一さんが、闘病の様子を含めて語った自伝、『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』(新潮社・東京、税込み2090円)が、6月21日に発売される。
『新潮』22年7月号から23年2月号に連載されていたもの。すでに文庫化された『音楽は自由にする』を継ぐものとして、死期を悟った坂本さんの提案ではじまった企画だった。音楽制作から舞台芸術への参加、政治的発言まで多岐にわたる活動を支えてきたその哲学や、さまざまな著名人との交流など、盟友の鈴木正文氏を聞き手に、貴重なエピソードが収められている。
坂本龍一氏コメント
【連載開始時】
夏目漱石が胃潰瘍で亡くなったのは、彼が49歳のときでした。それと比べたら、仮に最初にガンが見つかった2014年に62歳で死んでいたとしても、ぼくは十分に長生きしたことになる。新たなガンに罹患(りかん)し、70歳を迎えた今、この先の人生であと何回、満月を見られるかわからないと思いながらも、せっかく生きながらえたのだから、敬愛するバッハやドビュッシーのように最後の瞬間まで音楽を作れたらと願っています。
そして、残された時間のなかで、『音楽は自由にする』の続きを書くように、自分の人生を改めて振り返っておこうという気持ちになりました。幸いぼくには、最高の聞き手である鈴木正文さんがいます。鈴木さんを相手に話をしていると楽しくて、病気のことなど忘れ、あっという間に時間が経ってしまう。皆さんにも、ぼくたちのささやかな対話に耳を傾けていただけたら嬉しいです。
(2022年6月7日)
【連載完結時】
2020年の末、自らに残された時間を悟ったぼくは、生きているうちにしておかなくてはいけないことをリストアップしました。そのひとつが、『音楽は自由にする』以降の活動を自分の言葉でまとめておくことでした。少々慌ただしいスケジュールだったけれど、聞き手の鈴木正文さんにも助けられながら、間もなくリリースされる『12』までの足跡を振り返ることができ、今はホッとしています。連載は完結しますが、もちろんこの先も命が続く限り、新たな音楽を作り続けていくつもりです。
(2023年1月6日)