
人型ロボットが人間の記録を超えた。8月に北京で行われた世界人型ロボット運動会(WHRG)で、中国の「天工Ultra」が100メートルを8秒64で駆け抜け、ウサイン・ボルトの人類最速記録9秒58を上回った。昨年は21秒台だったのに、わずか1年で劇的な進化だ。大会には16カ国から2千台以上が集結したが、その9割超は中国製だ。日本からもGMOがロボット「ひとみん」を送り込んだ。ソフトはGMOが自社開発したものの、ベースとなる機体は中国・宇樹科技(Unitree)製だ。米中AI競争が報じられる中、人型ロボットの生産台数において、中国勢が圧倒的なシェアを握りつつある。
その業界の先頭を走るUnitreeが8月19日、上海科創板市場へ上場した。公募倍率は約5500倍に達し、初値は公募価格の6倍を超え、時価総額は一時10兆円を突破するフィーバーとなった。ただ、関係者が歓喜に沸く上場式典で、36歳にして莫大な資産を手にした創業者兼CEOの王興興氏だけは、まるでロボットのように無表情で、記者にも非常に素っ気ない対応をしたことがニュースになった。
実は王氏はロボットのようにエリート街道を正確無比に歩んできたわけではない。幼少期から機械が大好きで物理や化学では抜群の才を見せたが、英語の単語が覚えられず、学校では「頭が悪い」と見放され、大学・大学院入試ともに第一志望校に合格できなかった。だがロボットへの情熱を捨てず、安価なモーターを独学で駆動させて四足歩行ロボットを作り上げ、大学院時代にコンテストで2等に入賞した賞金を元手に起業した。起業後も資金難で倒産寸前に陥り、友人宅で居候しながら大手資本から資金調達をするなど、まさに一昔前のロボットのように「七転び八起き」しながら上場まで辿り着いた。
株価は公開直後をピークに9月上旬には半分以下に急落したが、彼にとっては転んだうちに入らないだろう。事実、王氏は上場翌日、「人型ロボットがChatGPTのように劇的な転換点を迎えるには、あと2〜10年かかる」と自ら株式市場に冷や水を浴びせた。別の場では「踊りやカンフーなどの見せ物をするためではなく、自律的に人間の仕事をこなせるようにならないと役立つロボットとは言えない」とも述べている。将来、介護ベッドの横に立ち、あなたの体を支えてくれるのは日本人でも、インドネシア人でもなく、日本語を流ちょうに話す中国製のロボットかもしれない。「人手不足はロボットに任せチャイナ」の時代は着々と近づき始めている。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.36からの転載】
野村義樹(のむら・よしき) 中華圏歴22年目。妻、娘2人と上海在住。現地のビジネスや生活をメルマガ「中カツ!通信」にて配信中。







