故人の「想い」かなえる 遺贈寄付 日本財団名誉会長 笹川陽平氏×フリーアナウンサー 長野智子氏

(左)笹川陽平(ささかわ・ようへい)日本財団名誉会長、笹川平和財団名誉会長。(右)長野智子(ながの・ともこ) フリーアナウンサー。

 遺言書によって財産の一部を特定の団体などに寄付する「遺贈」。相続人がいない場合でも家族がいる場合も、「想(おも)い」を託して社会貢献を実現する財産の遺(のこ)し方の選択肢として注目されている。日本財団は、そうした故人の「想い」を実現する制度の普及に取り組むため、2016 年に「遺贈寄付サポートセンター」を立ち上げた。

 遺贈寄付の意義について、自分の利益よりも他人の幸福を願う「利他の心」を信条とする日本財団の笹川陽平名誉会長にフリーアナウンサーの長野智子氏が聞いた。

遺言書の文化つくる

長野 日本財団が遺贈寄付に取り組まれるようになったきっかけを教えてください。

笹川 簡単なことなんです。私も社会で活動してきて多くの人と知り合いましたけれども、ご本人が健康で生活されている時には、ご家族も親族もみんな穏やかな生活をされています。亡くなった途端に(財産を巡って)家族の間でいさかいが始まり、親戚との関係も崩れていくことがよくあるんです。ご本人が自分が死んだ後も穏やかな生活をしてほしいという願いをきちっと遺言書に書いていないとそういうことが起きます。日本人は遺言書を書くという文化が今までなかった。だからまず遺言書を書きましょう。そういう文化をつくりましょうというのが私の根本の考え方なんです。

長野 名誉会長ご自身も遺言書を書かれました?

笹川 80歳の時に書きました。葬式の時の写真も用意しています。終活のアルバムの写真の整理だけでも1週間かかったけど、気持ちがすっきりしますよ。日本財団は、たくさんの遺言書を預かっていますが、書いたら皆さん胸のつかえが下りて元気になるようです。

長野 実は私も書きました。なぜかというと、事故に遭いまして、ちょっと打ちどころが悪ければ死んでいたという経験をしました。まだまだと思っていましたが、そうか明日死ぬかもしれないと気が付いたんですね。その時に「遺贈」という言葉を知って「いいな」と思いました。だけどあまり浸透しているとは言えない状況です。もう少し詳しく遺贈について教えてください。

「利他の心」

笹川 遺贈は日本では新しい寄付の形です。社会の一員として生きてきたから、何か社会のために自分の人生の最後にお役に立ちたい、良いことしたいというそういう文化、「利他の心」は、もともと日本にはあったんですね。知識人が「日本には寄付の文化がない」なんて言うけど、そんなことはない。能登半島地震の時は日本財団に延べ40万人が寄付してくださった。300円とか500円とかの人もいましたが、わずかなお金でも何か貢献したい、そういう優しい心が日本人にはあるんです。私も高校生の時にアルバイトしたお金を寄付したことがあります。金額ではない。気持ちなんです。そういう文化が日本には伝統的にあると思っています。

長野 自分が働いてためたものを、亡くなった時に社会貢献するというのは気持ちがいいものがありますね。

笹川 遺贈は社会に対するお礼なんです。ただ、日本には「陰徳」という言葉があるように、自分がした良いことは他人に言わない。いい格好してと言われるから、寄付にしても匿名が多い。やっぱり、良いことしたら言っていいと思うんです。寄付したら税金がかからないということもある。節税しながらちょっと世の中にお返ししたい、ということでもいいんです。

透明性と説明責任

長野 寄付するには預かってもらう先の信頼とか透明性が大事です。

笹川 お金をお預かりした場合、何に使われるかわからないのでは困る。大切に使うというのは当たり前ですけど、やはり「こういうふうに使いました」とお伝えする。透明性と説明責任がすごく大事です。私たち財団はお金をもらっているわけではない。お預かりして、預けた人の気持ちに寄り添って、社会的な取り組みに活用しています。

長野 これまで日本財団に遺贈を依頼した人で印象的な人はいますか。

笹川 終活として遺贈をしたいという人からお手紙をいただいたことがありました。「遺贈先を探していて、日本の子どもが豊かに育ってほしいという想いを実現してもらうのは日本財団が一番だった」というものです。何に使ってもらいたいか決めきれない人の中には、私たちの相談窓口で何時間でも電話で話す人もいます。

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1月5日は「遺言の日」

長野 遺贈を考えている人にアドバイスはありますか。

笹川 二つあります。一つは相続人がいない方に向けて。お一人で亡くなられて遺言書がないと国庫に入ります。それが年間1000億円くらいある。自分の想いがあれば、それを社会貢献のために有効に使えます。もう一つ、相続するご家族がいる場合は、残される家族に自分の意思をきちんと書いておく。そういうことがとても大事です。

長野 何歳ぐらいになったら遺言書を書いた方がいいでしょうか。早いに越したことはないでしょうか。

笹川 これまでの中には57歳という人がいましたが、70歳過ぎたら書かないといけないでしょうね。50歳でも60歳でも病気になる人もいる。何回書き直してもいいんです。子どもたちから「遺言書を書いてほしい」と言いにくいということがあるので、遺言についてもっと考えてもらおうと、正月で家族が集まる機会に話し合える1月5日を「遺言の日」として記念日登録しました。そういう普及活動もしています。今後も遺贈寄付をより多くの方に知っていただけるよう、発信していきたいと思います。

日本財団遺贈寄付の手続き

一人一人の遺産を個別に管理

 「遺贈寄付サポートセンター」は設立10 年になりました。遺言書の受領件数も年々増え、500 通に達しました。今年は急速に増えています。日本財団の遺贈寄付の特長は「一人一人の遺産を個別に管理する」ことです。他の人の財産と一緒になることがないので「子どもたちの未来に」とか「障害者支援に」「災害復興に」といった「想い」に沿った寄付ができます。寄付先がいろいろあることも特長と言えます。既に34億円を超える寄付をさまざまな団体に実施しました。

 寄付者の財産の100%が日本財団を通じて支援先の事業に活用できます。遺贈の意思を表明してから亡くなるまで財産が減っていくこともあります。後で遺贈の額を書き直すこともできますし、金額の大きさは関係ありません。相談窓口に、どんなことでも聞いていただければと思います。

遺贈寄付サポートセンター チームリーダー 木下園子

日本財団遺贈寄付サポートセンター
電話:0120・412・523(土・日・祝日を除く午前9時~午後5時)
URL:https://izo-kifu.jp/

*日本財団とは
 1962 年に設立。地方自治体が主催するボートレースの売上金をもとに、国内外の社会課題解決に取り組む公益団体への資金助成をする。「海洋」「国際」「子ども」「災害」「障害」「社会」の6分野で、問題解決や福祉・教育の向上、災害救援、人材育成といった活動を支援している。2024年度だけでも1225プロジェクトに資金助成を実施している。