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「どうする家康」第2回「兎と狼」二度の「どうする!?」が示す家康の成長【大河ドラマコラム】

 NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。1月15日に放送された第2回「兎と狼」では、桶狭間の合戦後、主人公・徳川家康(松本潤)が三河城に入るまでが描かれた。

徳川家康役の松本潤 (C)NHK

 今回、家康が「どうする!?」と大きな決断を迫られた場面は二つ。最初は、自軍がこもる大高城に織田信長(岡田准一)率いる軍が迫ってきたとき。そして二度目が、負傷兵を率いて逃げ込んだ大樹寺を、松平昌久(角田晃広)の軍に包囲されたときだ。

 いずれも「敵の包囲をどう突破するか」という決断を迫られた場面だったが、一度目は「どうする?」と迷っている間に、織田軍に城を包囲されてしまった。これは、織田側の都合で包囲を解いて去ったことで、辛うじて難を逃れた。しかし、家康自身はここで何の決断を下すこともできなかった。

 だが二度目の、昌久の包囲に対しては、「わが首欲しければ、取ってみるがよい! かかって参れ! ただし、岡崎でわが帰りを待つ千の兵たちが怒りの業火となって貴殿の所領に攻め入るであろうから、しかと覚悟せよ!」と敵を威圧し、堂々と道の真ん中を歩いて三河へと立ち去った。

 ここに、家康の成長の跡をうかがうことができる。その間、何があったのか。一つは、織田家の人質となった幼い頃、信長と相撲を取った記憶がよみがえったこと。そしてもう一つが、「厭離穢土欣求浄土(おんりえど ごんぐじょうど)」という浄土宗の教えに触れたことだ。

 織田家の人質となった幼少期の竹千代(後の家康/川口和空)は、信長に相撲でこてんぱんにやられ、「地獄じゃ」と泣き言をこぼす。

 だが、「弱ければ死ぬだけじゃ!」とけしかけてくる信長に対して、ついに「違う! 竹千代はウサギではない! 違う! 竹千代はトラじゃ、トラなんじゃぞ!」と反撃し、信長の腕を締め上げることに成功する。

 そして、昌久に包囲された場面では、自ら首を献上して傷ついた家臣たちを救おうとするが、その際、寺の柱に掲げられていた「厭離穢土欣求浄土」という言葉が目に入る。

 家康はこれを「汚れたこの世を離れ、極楽浄土へ行け」という意味だと捉え、それを心のよりどころに、自ら腹を斬ろうとする。だが実は、「厭離穢土欣求浄土」は「汚れたこの世をこそ、浄土にすることを目指せ」という意味だと榊原康政(杉野遥亮)から教えられる。

 この二つが家康を奮い立たせ、包囲していた昌久軍を退ける原動力となった。そしてここにはもう一つ、家康が知らなかった事実が関わっている。それが、家康の出生の真実だ。

 昌久の軍を退ける際、「わしはトラの年、トラの日、トラの刻に生まれた武神の生まれ変わりじゃ!」と気勢を上げた家康だが、実はトラ年ではなく、ウサギ年の生まれだったことがその後、回想シーンの母・於大の方(松嶋菜々子)と父・松平広忠(飯田基祐)のやり取りの中で明かされる。

 「厭離穢土欣求浄土」の勘違い、そして生年に関する家康の思い込み。ここから浮かび上がってくるのは、「考え方次第でものの見え方は変わり、窮地を突破する力になる」というメッセージだ。

 前回の本コラムで『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 前編』(NHK出版)に掲載されている「強国に囲まれた中で家康がたどった道のりが、先の見えない今の時代を生きる手掛かりになればと願っています」という制作統括・磯智明氏の言葉を紹介した。

 今回早くも、その思いの一つが浮かび上がってきたように思う。これから家康と一緒になって、私たちも戦乱の世の物語を駆け抜けていけるのではないか。そんな期待が膨らむ第2回だった。

(井上健一)

徳川家康役の松本潤(左)と本多忠勝役の山田裕貴 (C)NHK