おでかけ

豪雪地帯ならではの世界大会出場! 冷えた体を温めるオリーブグリーンの濁り湯が極上 「肘折温泉 亀屋旅館」 【コラム:おんせん! オンセン! 温泉!】

(山形県大蔵村 肘折温泉)

 山形県大蔵村に湧く肘折(ひじおり)温泉。1200年以上の歴史を持ち、昔ながらの湯治場の雰囲気を残す温泉街には、約20軒の宿が並んでいます。日本有数の豪雪地帯でもあり、積雪は平均して3メートルを超えるほど。これからの時期は、雪景色の中の風情ある温泉街を楽しむことができますね。

 そんな雪深い肘折温泉では、毎年2月に世界大会が開催されます。それが「地面出し競争 WorldCup in 肘折」。スコップとスノーダンプ(除雪道具)を駆使して、時には4メートルにもなる積雪を掘り進め、地面を出して、その土を届けるまでの時間を競うチームスポーツです。昨年(2023年)の大会に私も出場してきましたので、そのお話とともに肘折温泉をご紹介したいと思います。

夜の肘折温泉街
「亀屋旅館」の外観
「亀屋旅館」の館内

 

 23年の大会開催は、2月最終週の日曜日の午前中。試合出場に万全を期すために、肘折温泉の宿に前泊することにしました。宿泊したのは、一本道の温泉街最奥に立つ「亀屋旅館」。全13部屋のレトロな木造旅館で、訪れた日の雪景色にマッチするレトロで素朴な外観。館内もお部屋も昭和を感じる和風な設えで、田舎の親戚の家を訪れたかのような雰囲気で、ほっこりとした気分になりました。

内湯➀の全景

 

 お風呂は、男女別の内湯のみ。それぞれ4人ほどが入れる湯船があるシンプルな作り(片方は2人サイズの湯船もあります)。こちらの旅館では、二つの異なる源泉を使用していて、共同浴場と亀屋旅館のみで使われる「疵湯(きずゆ)」と、保温効果に優れているという「あったまり湯」を楽しむことができます。

内湯➁の全景

 

 泉質は、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉。ほのかにオリーブグリーンに濁るお湯は、軽快で爽やかな金気(かなけ)と、肥沃な土のような重たさがブレンドされた香りで、成分の濃厚さを感じます。熱めの適温に調整された湯船に体を沈めると、湯がグッと染み入るような感覚で、その温かみがグングンと芯まで浸透してくるような浴感でした。ツルツル感とキシキシ感の同居する肌触りからも、濃い温泉成分を体感することができます。湯上りは、いつまでも体がポカポカしていて、評判通り、温まり効果は抜群でした。

夕食一例

 

 食事は、地元の食材や山菜をふんだんに使った女将(おかみ)さんの手作り料理です。

 宿泊した日の夕食は、川魚の塩焼き、牛肉の煮物、お刺身、山菜の小鉢などのメニューが、真四角なお膳にのって出てきました。見た目に派手さはありませんが、どれもやさしい味付けでおいしく、ご飯との相性が抜群でした。何種類もの山菜を食べられることもあり、お腹が満たされるだけでなく、健康にもなれるような料理ですね。

 翌日、温泉と栄養満点の食事で整えた万全のコンディションにて、「地面出し競争」に参戦(実は夕食後に、大会の前夜祭があり少し飲みすぎていました)。出場は41チームで、地元の青年団チームや企業チーム、遠くは埼玉、東京、愛知県のチームに、山形在住の外国人英語教師チームなどなど、ワールドカップの名にふさわしいラインアップでした。

 

号砲とともに持ち場へ走る選手たち
各チームが一斉に雪を掘り始めています

 

 23年大会時の積雪は約3メートル。スタートの号砲とともに、各チームが事前に決められたエリアまで猛ダッシュ。1チーム6人編成で、スノーダンプ2台、スコップ4本を駆使し、積もり固まった雪を掘っていきます。この日の気温は氷点下3度。小雪が降る中、事前にシミュレーションしたフォーメーションで、スコップを振り続けます。寒かったはずが、いつの間にか汗だくになり、スコップ係交代の休憩中に一気に冷えて寒さが身に染み、また汗だくになる、を繰り返します。

これだけ掘っても地面にたどり着きません

 

 しかし、掘っても掘っても地面が見える気配すらなく、周りのライバルチームたちは次々とフィニッシュ。先にゴールしたライバルたちのアドバイスもあり、私たちのチームもやっとのことで地面にたどり着き、ようやくゴールできました。

 タイムは38分36秒で、41チーム中34位。優勝チームのタイムは、7分37秒というのだから驚きです。世界の壁は厚かったです。私たちのチームは世界ランキング34位。東京都からの参加は私たちだけでしたので、東京都ランキングでは1位ですね。

 

大会後、冷えた身体で入る温泉が極上

 

 その後、閉会式を経て、宿泊した亀屋旅館で温泉に入らせてもらいました。いったんは汗だくになった体も芯まで冷え切り、手足はかじかんだ状態だったので、温泉の温かさがジンジンと染み入る極上の湯浴み。慣れないスコップで重たい雪を運んだ肉体疲労もあり、そのままお湯に溶けてしまいそう、夢うつつの気分でした。

優勝チームには「金のスコップ」贈呈

 

 今回は、山形県の肘折温泉と、そのイベント「地面出し競争 WorldCup in 肘折」を紹介しましたが、全国には温泉地を盛り上げようとして開催されるユニークなイベントがたくさんあります。温泉地でゆっくり過ごす休日もいいものですが、イベント開催に合わせて足を運び、にぎやかに楽しむ温泉旅行もいいものですね。

 ちなみに、このイベント、2025年2月の開催も決定しています。1月よりエントリーがスタートしますので、われこそはという方は、ぜひ世界チャンピオンを目指してみてくださいね。

 

【肘折温泉 亀屋旅館】

住所 山形県最上郡大蔵村南山521

電話番号 0233-76-2311

 

【泉質】

ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(低張性 中性 高温泉)/泉温43.5度など/pH:6.4など/湧出状況:混合泉/湧出量:不明/加水:あり/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆掛け流し

 

【筆者略歴】

小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。