働く女性たちにエール! 長谷工コーポレーションの支店長に女性として初めて就任したのはどんな人?

間瀬支店長 冒頭写真

 世界経済フォーラム(WEF)は2021年3月、世界156カ国を対象とした「ジェンダー・ギャップ指数2021」を発表した。各国の男女間の格差を数値化したこのランキングで、日本の順位は、なんと120位。先進国中最低レベルで、韓国や中国、ASEAN諸国よりも低い。その要因として指摘されるのは、議員や閣僚に占める女性比率の低さや、女性管理職の少なさだ。
 ――その発表から数日後、2021年4月1日付で長谷工コーポレーション名古屋支店長に間瀬さゆり氏が就任した。同社初の女性支店長の誕生だ。長谷工コーポレーションといえば、日本のマンション建設のリーディングカンパニー。男社会といわれる建設業界において、女性が支店長になるのは極めて珍しいことだという。女性活躍推進の遅れが嘆かれる中、快挙を成し遂げたのは、一体どんな女性なのだろう。そして、そんな女性が活躍する長谷工コーポレーションとはどんな会社なのだろう。

多岐にわたるマンション事業の第一走者として従事

 「♪マンションのことなら長谷工~」というテレビCMでおなじみの長谷工グループ。マンションの建設を主な事業とする長谷工コーポレーション(以下、長谷工)は、グループの基幹会社だ。長谷工がこれまでに施工したマンションは、累計で67万戸を超える。これは日本のマンションストックの約1割に相当する。東京・港区にある本社のほかに、関西、横浜支店、名古屋支店、京都支店、九州・沖縄事業部、中四国不動産営業部、都市開発部門、技術研究所といった事業所があり、社員数は約2,500人。うち女性社員は360人だ。
 名古屋支店の社員数は現在94人(うち女性は14人)。工事受注のための営業部門、企画・設計、開発(許認可やマンションを建てる近隣への対応)、実際に工事を行う建設部門、一般的な管理部門などを有する大きな支店である。
 その名古屋支店を率いることになった間瀬さんが長谷工に入社したのは1990年。バブル期で就職戦線も売り手市場に沸いていた頃だ。選択肢が多い中、なぜ長谷工に入社しようと思われたのだろうか。そのあたりからお話をうかがっていこう。
 「特に明確な志があったわけではありませんが、再開発や街づくりといったことにぼんやりとした興味がありました。長谷工グループは、近年もシニア事業をやったり、お米作りをやったり、いろんな事業に携わっていますが、当時も建設業だけでなく不動産をはじめ、住まいに関するいろいろなことをやっている会社でしたので、自分にも挑戦できることがありそうだなと思って入社試験を受けました」
 入社してからは不動産畑が長かったという間瀬さん。具体的にはどんな仕事内容だったのだろうか。

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マンション事業の流れ

 「マンション事業は、建設場所の用地確保、事業計画の立案、設計、許認可の取得、近隣さんへのご説明を経て工事が始まります。その後もグループ会社で販売をしたり、完成後のマンション管理をしたり・・・と多岐にわたります。不動産部門の仕事は、マンションを作る土台となる土地の仕入れです。長谷工グループのマンション事業の一歩目で、駅伝で言えば第一走者です。具体的には、個人や企業といった地主様から土地を買わせていただきます」

 土地の購入となると、交渉事の多い大変な仕事だったはずだ。
 「大規模な土地を取りまとめるのは簡単なことではありません。特に複数の権利者の方々にご賛同いただいて土地をお譲りいただく場合、非常に時間がかかるケースもあります。私が30年間携わった中には、1プロジェクトの最大権利者数が27権利者というケースもあり、その時は土地を取りまとめるのに4~5年を費やしました。しかしながら、どうしてもその場所でプロジェクトをスタートしたいという一心で粘り強く交渉し、最終的にはプロジェクトも無事、成功いたしました」

念願の管理職になってみると

 難しい案件もクリアしながら、男社会といわれる業界で長く働いてきた間瀬さんに、女性ならではの利点と女性ゆえの難しさを感じたことはあるか尋ねてみた。
 「女性が圧倒的に少ない業界ですので、珍しいということで、覚えていただきやすかったことは利点だったかもしれません。長谷工・名古屋・女性といえば間瀬という感じです。
 やりづらいなと思ったのは、不安の声を社外の方からいただいたときですね。不動産という、責任もあり法律行為で高いスキルも要求される仕事を、若い女性にまかせていいのかという不安の声です。担当を代わって下さいと言われたことは何度かありました」
 1986年に男女雇用機会均等法が施行されたものの、まだまだ女性にはサポート的な仕事しか与えられないことも多かった90年代。間瀬さんは、男性に代われとお客さんに言われれば素直に受け入れたという。
 そんな間瀬さんが初めて管理職になったのは、2005年。不動産部のチーフで、いわゆる課長職だ。昨今、女性に限らず管理職になりたくないという社員も多いと聞くが、管理職になりたいという思いはあったのだろうか。
 「20代、30代の前半は早く管理職になりたいと正直思っていました。担当者として働くのもやりがいがあって楽しかったんですが、もっと仕事の幅を広げたいという思いもありましたし、管理職として方向性を判断する責任ある仕事をする方がよりかっこいいと思ってました(笑)」
 だが、実際に間瀬さんが不動産部のチーフになれたのは40代前半。同世代の男性に比べるとかなり遅かった。念願の管理職になってみてどう感じたのだろう。
 「実際に管理職になってみると、若い頃イメージしていた管理職とはまったく違いましたね。そして時代も変わりました。ポジションが上がれば上がるほど仕事は増えますし、責任も伴います。フィールドも増えますが、自らが率先してやらなければなりません。本当に大変でした」
 現在、長谷工コーポレーションの部長職以上の幹部社員は376人。そのうち女性は18人とまだまだ多くはない。自らが管理職になれた要因としては、仕事を続けられたことが大きかったという。
 「長谷工は割と柔軟な会社で、女性だからどうだとか国籍が違うからどうだというようなバイアスがあまりないんですね。昔から数は少ないながらもいろいろな部署に女性が配属されていましたが、みなさん結婚や出産で退職していったんです。当時はそれが当たり前の時代でした」
 管理職になってから16年後、副支店長になっていた間瀬さんは、ついに支店長を拝命することになる。打診があった時はどうだったのか。
 「非常に驚きました。若い頃の管理職になりたいという思いは、部長ぐらいになるとなくなっていましたから。もうここまででいいやと思って働いていました(笑)」

コロナ禍の影響を受けてお弁当作りを始めたという間瀬支店長(写真右)。 手作りのお弁当を食べているうちに、8カ月で体重が20代の頃に戻りうれしかったという。
コロナ禍の影響を受けてお弁当作りを始めたという間瀬支店長(写真右)。
手作りのお弁当を食べているうちに、8カ月で体重が20代の頃に戻りうれしかったという。
女性活躍推進の流れを生かす長谷工

 まったく想定していなかった支店長に就任した間瀬さんが、いま心がけているのは、環境づくりだという。
 「支店には、年齢構成や性格、考え方などが違う多彩なメンバーがいます。それぞれのメンバーみんなが輝いて目標達成をして、達成感を味わっていただけるような環境づくり、これが私の最大の役目だと思っております」
 その環境づくりに役立てているのが、“1on1ミーティング”だ。上司と部下が定期的に1対1で対話を行うマネジメント手法で、長谷工でも積極的に活用されている。
 「名古屋支店では、月1回30分程度、若い担当者から部長クラスまで、仕事の直接的な部分以外のことを1対1で話し合います。これは非常に貴重な30分です。ふだん話さない分野の話ができたり、精神的な部分を相談してもらったりと、コミュニケーションを図る上で飲み会よりも効果があると思います」
 ちなみに長谷工では、2019年に女性活躍推進室が発足。女性社員同士のコミュニケーションを促す場も設けられている。
 「営業部門と建設現場の女性社員はまだまだ少ないですが、同じ仕事をしている後輩たちと情報交換ということで、東京・大阪・名古屋のメンバーが一堂に会して、職場の悩み相談みたいなところから始め、それぞれの顔と名前を知って、何かあったらみんなで相談できるような関係づくりをしています」

 管理職を目指す女性に、間瀬支店長からエールを送っていだこう。
 「私が支店長に就任させていただいたのは、2015年に女性活躍推進法ができたという世の中全体の流れもあったと思います。20代の頃は早く管理職になりたいと思いながら、初めて管理職になれたのは40歳を過ぎてからでした。課長になったときは3年以内にすぐに部長になりたいと思っていたんですが、そこから12年間、課長のままでした(笑)。女性たちにはぜひ管理職も目指していただきたいんですが、あわてなくていいと思います。人生は長い。何が起こるか分かりません。私と同年代で早めに管理職になられた方でも、今は役職定年で担当者に戻っている方もたくさんいらっしゃいます。そんな中で支店長になったというのも不思議な感じがしています。管理職に限らず、自分の目指す道を一歩ずつ着実に歩んでいってもらいたいと思います。そして結果は後から付いてくる」

 長谷工は近年、女性活躍推進にも力を注いでいる。女性活躍推進に積極的に取り組む企業等を愛知県が認証する「あいち女性輝きカンパニー」企業でもあり、その認証企業の中から2021年には女性活躍推進の取り組みを取引先企業などに広げるプロモーションリーダーにも就任。また、女性がいきいきと活躍できるような取り組みをしている企業を名古屋市が認定する「平成29年度女性の活躍推進企業」にも選ばれている。
 さらに人事制度においても、女性や子どもへの配慮は手厚い。妊娠後の時間単位年休、連続2カ月の妊娠休業(産前休業と別途)、配偶者出産休暇、育児休業、復職後の育児時間(30分単位で1日2時間まで業務時間短縮)、子ども休暇(保育園行事など1子につき10日間、3歳誕生日前日まで、半日単位可)、子どもの看護休暇(小学児童のケガや病気、年間5日、半日・1時間単位可)などが設けられている。

名古屋支店が挑む目標

 支店長という重責を担ってみて感じる難しさ、面白さはどんなところにあるのだろう。
 「難しさは、当たり前ですけれども、会社から与えられている目標の数字を達成することですね。目標達成を求められるのはチーフであっても部長であっても同じですが、背負っている数字が大きいですから、その分のプレッシャーというか責任はすごく感じます。それを達成するためには、各部門の仕事を、チームワークでうまくつなげていくということが大切です。まだ就任したばかりですので結果は出ていませんが、結果を出すことで達成感や面白さもより一層感じられるのではないかなと思っています」
 先のキャリアは考えず、目の前の目標をこなしていくだけと語る間瀬支店長に、名古屋支店の目標をうかがった。
 「分譲マンションの施工シェアを30%にしようという明確な目標があります。首都圏では35%を超えていますが、名古屋においては、20%プラスアルファぐらいです。それを30%台にすることがわれわれの急務となります。
 それを達成するためには、現在、名古屋駅エリアに施工中の『NAGOYA the TOWER』のような超高層のマンションを継続して手掛けていくこと。加えて、再開発・建て替え事業にも注力していきます。そして名古屋市を中心に愛知・岐阜・三重、東は豊橋までいま現場を確保していますが、もうひとつ隣の静岡・浜松までエリアを拡大したい。施工メニューと事業エリアの拡大が名古屋支店の現在の目標になります」

NAGOYAtheTOWER パース
現在、建設中の「NAGOYA the TOWER」。名古屋駅からほど近いので、東海圏にお住いの方はもちろん、東京・大阪の方々にもおすすめだという。
関西のお笑い的なノリのある会社?

 最後に、長谷工コーポレーションってどんな会社ですか?と就活中の大学生のような質問を支店長にぶつけてみた。
 「若いうちからばりばり働きたい方にはとてもやりがいのある会社だと思います。比較的柔軟で、社員が元気な会社ですね。女性もとっても元気なメンバーが多いです。
 会社の雰囲気も、東京・名古屋・大阪、それぞれに多少の違いはあるでしょうが、もともと関西からスタートしている会社ですから、関西のお笑い的なノリがあります。ノリツッコミっていうんですか? 私なんか名古屋出身なもので下手ですが(笑)。議論を交わしていてもどこかにオチを作るみたいなところもありますね。楽しく元気にやれる会社じゃないかと思います。
 女性も遠慮する必要はまったくありません。建設現場で働くこともできますし、重機のオペレーターの免許を取るチャンスもあります。かっこ良くないですか? いろんな分野の仕事がありますから、これ1本というスペシャリストを目指すのもいいですし、いろんな仕事を経験して最終的に自分が何に向いているのか判断して自分の人生を決めるのもいいと思います」

 長谷工では「ハセジョ(長谷女)」と呼ばれる女性社員たちが、事業計画の立案、企画、開発推進、設計、施工、販売、インテリア内装、そして管理までマンションライフづくりのすべてのフィールドで活躍している。それは長谷工の大きな特長であり、バイアスがないのが社風だ。男社会といわれる建設業界において、女性の目線や感性もマンションづくりに生かしている長谷工は、女性にとってもさまざまな可能性を秘めた職場ということだろう。間瀬支店長の言葉の端々からは、そんな女性活躍の雰囲気がしっかりと伝わってきた。