この号が出る頃にはまだ世間を大混乱させていると思われる有名な7月5日にまつわる予言の話題です。発端は、漫画『私が見た未来 完全版』(たつき諒著)。予言の根拠は著者が見た夢で「フィリピンの中間あたりの海底がボコンと破裂」「東日本大震災の3倍以上の高さ」の大津波が押し寄せる、という内容です。
東日本大震災を予言したという著者なので、信じて恐怖に陥る人々も多数。大手メディアにも取り上げられ、2012年のマヤの予言以来の騒動になりました。再生回数目当てにユーチューバーがこの話題を取り上げて、予言が拡散。アジア各国・地域にまで広がって、訪日観光客が減少する事態に。著者はこれだけ世間を騒がせながらも「皆様が高い関心をお寄せいただいていることは、防災意識が高まっている証拠であり、非常に前向きに捉えております」と、ポジティブでメンタルの強さを伺わせます。本が100万部以上爆売れしたことで余裕があるのでしょうか。

有名な物理学者が、安全なのは「北海道と広島と山梨」と発信したことで引っ越す人も。「六本木は安全」という謎の説も聞きました。私は懐疑的だったのですが、韓国人の霊能者の先生が「日本に行くのは危険だと周りから止められた」「早く日本を出たい」と話すのを聞いて、不安がよぎりました。台湾に行ったとき、現地の人にも「日本はもうすぐ大災害に見舞われるという説が流れてますよ」と言われました。この災害に乗じて台湾に中国が侵攻してくる、という不穏な説も流れているようです。
他にも「隕石(いんせき)を地球に吸い寄せる機械がある」「果敢なUFO(未確認飛行物体)が地球に向かっている隕石に体当たりして砕いてくれている」といった珍説が飛び交いました。笑ってポジティブになることで、不安なムードを吹き飛ばせそうです。最も心に刺さったのは、有名なSF作家の先生のお言葉。「予言を信じている人たちにとって、つまらない日常が続いていくことが最大の悲劇です」という話は腑(ふ)に落ちました。
一部には破滅的な出来事を望んでいる、リセット願望がある人が存在しているのでしょう。災害を引き寄せようとする彼らの負のエネルギーに負けないで、平凡な日常を持続させたいです。と言いながら、滅亡予言前の駆け込み消費で、ブラウス、カーディガン、バッグ、靴3足、パンツなどを購入。お金を使いまくってしまった自分がいました。経済活動を活発化させる効果はありそうです。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 25からの転載】
辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。2024年7月に「川柳で追体験 江戸時代 女の一生」(三樹書房)を上梓。