社会

信金のグリーンプロジェクト進む 脱炭素化へ中小企業を総合サポート

 全国254の信用金庫と中央金融機関の信金中央金庫が、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルに向けた地域の取り組みを支援する「しんきんグリーンプロジェクト」を進めている。関連事業への資金供給にとどまらず、脱炭素化を巡り焦点の一つになってきた中小企業対策にも注力。中小企業は信金の主要顧客だが、大手に比べ、資金だけでなく、必要な要員や情報が不足しがちなため、信金の官民ネットワークや地域での人的つながりを生かし、脱炭素化の必要性や道筋の説明、二酸化炭素(CO2)排出量の見える化サービスの提供などにより、総合的にサポートしている。

脱炭素経営に向けた信金職員の研修会(23年4月、浜松市の浜松いわた信用金庫で)

 ▽地域発で再エネ促進

 「しんきんグリーンプロジェクト」は、信金中金の中期経営計画「SCBストラテジー2022」(22-24年度)に盛り込まれた重点施策。2022年6月には環境省、全国信用金庫協会、信金中金が連携協定を締結。全国各地で企業、金融機関、自治体、政府機関などが多面的に連携する「地域経済エコシステム」を形成し、脱炭素化を推進するとしている。ファイナンスでは、ESG(環境、社会、企業統治)分野への投融資額を21~30年度に累計3兆円とする目標に対し、実績が23年3月までに8千億円台に達している。

 北海道では今春から、丸紅の子会社と大成建設の出資で設立した特別目的会社「石狩地域バイオマス発電株式会社」(石狩市)に、信金中金がアレンジャーとなり道内5信金(北海道、空知、苫小牧、北門、北空知)とともに協調融資を開始した。地域の未利用間伐材を使用した地産地消型の再生可能エネルギー供給を目指しており、農山漁村の活性化策としても期待されているという。発電所は26年1月に運転開始予定。年間の発電電力量は一般家庭約2.5万世帯分相当の約8千万キロワット時と想定されている。

 信金中金はこうした「地域発のグリーン化」を全国的に促進していく方針。「電力を消費する需要サイドと電力を発電する供給サイドの両面から脱炭素を実現したい」(広沢将之・地域創生推進部グリーンプロジェクト推進室長)として、中小企業の脱炭素化を進めるだけでなく、再生可能エネルギーの発電事業体への支援も検討している。

 ▽中小対策「まずは意識から」

 脱炭素化では、企業が排出する温室効果ガスの削減・抑制も大きな課題になるが、これまではグローバル企業や各種の規制対象となる大企業にスポットが当てられてきたため、中小企業の関心はあまり高くなかったといわれる。このため、信金中金は「まずは中小企業の皆さんに、脱炭素経営に関する意識を持ってもらうことから始めている」という。

 温室効果ガス排出量の算定をめぐっては近年、排出量が多い個別の大企業ばかりでなく、製品・商品が生産されて消費者に届くまでのサプライチェーン(供給網)全体を通じてカウントする方式が国際基準として浸透。金融市場でも、投資家がサプライチェーン単位で評価する傾向が強まり、「国内の中堅・中小企業も含めたサプライチェーン内の幅広い企業が変革を迫られる可能性がある」「(実際にグローバル企業が)サプライヤーに定量的な目標設定を求めるなどの動きがみられる」(22年7月の金融庁「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」)と指摘されている。日本の中小企業約360万社のうち約124万社と取引がある信金にとっても、中小企業の取り組みを促すことが不可欠の経営課題になっている。

 こうした流れを踏まえ、信金中金は、環境省が策定した環境マネジメントシステム「エコアクション21」(EA21)の認証・登録を行う一般財団法人持続性推進機構と連携。全国の信金と協力し、22年に全国10カ所以上で、延べ600社以上の取引先企業にEA21の普及に向けたセミナーを開いた。「環境への取り組みが取引条件になり、対応しないとサプライチェーンから外されかねない。対応すれば、環境面だけでなく、電気代などの経費削減や生産性の向上などで経営面にもプラス」などと呼び掛けている。

 中小企業は数が多いため、国も脱炭素化を支援する人材の育成を後押しする。環境省は23年夏にも、同省のガイドラインに適合する、適切な事業者が一定の基準を満たした教育プログラムを提供する場合に、国として「脱炭素アドバイザー資格制度」に認定する事業を始める。中小企業などが自社の温室効果ガス排出量などを計測、削減していくには、企業と日常的に接しながら、相応の知識を有するアドバイザーが必要として、地域の金融機関職員、商工会議所の経営指導員、自治体職員らの資格取得を促していく方針だ。

CO2排出量を見える化できる「e-dash」サービスのサンプル画面

 ▽CO2見える化も提供

 企業が脱炭素化の具体的な対策に乗り出すには、自社の温室効果ガス排出量の把握や社内体制の整備が必要になる。しかし中小企業が単独で着手するにはハードルが高いため、信金中金と信金は外部の専門機関・会社と連携し、顧客にサービスを提供している。

 このうち「e-dash」(東京都千代田区、山崎冬馬社長)は22年2月に設立された三井物産の100%子会社で、CO2排出量を見える化(可視化)するプラットフォームを運営している。利用者が電気代をはじめエネルギー関連の請求書をスキャンしてアップロードすれば、(国際基準でScope1、2に区分される)自社のCO2排出量が算出される。追加のオプションを利用すれば自社事業に関連した他社の排出量(Scope3)も算定可能だ。さらに、同社は可視化されたCO2の削減提案、脱炭素への目標設定や計画策定のサポートも行う。

 同社は約150の金融機関と連携しており、このうち信金が100に達している。その一つ、岐阜信金は23年4月から脱炭素経営を支援する「ぎふしん サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」の取り扱いを開始した。同SLLでは、第三者評価機関の格付投資情報センター(R&I)がフレームワークの整合性を確認。顧客のCO2排出量に応じ金利が変動するなどの仕組みだが、顧客はSLLで通常必要とされる格付機関などからの第三者評価の実施費用を負担せず、e-dashのプラットフォームで算出したCO2排出量を同信金へ報告することで、SLLを組成することが可能になったという。

 e-dashはこのほか、「北海道経済連合会が利用料金を一部支援し、道内企業50社超のCO2排出量データを収集する」「会社員が出張時にJCBの法人カードを使って支払った、鉄道やタクシー料金の決済データからCO2排出量を算定する」など、幅広くサービスを提供。地方自治体も含め、全国約4500拠点(事業所)で利用されている。

 e-dashの山崎社長は「国内企業が世界の脱炭素化の流れに取り残されないためには、各社の経営に寄り添う金融機関の役割が重要と考え、全国の金融機関と連携している。これまでは関係ないと思われてきた中堅、中小企業も含め、日本全体でやっていかなくてはならない時代になった。パートナーとして、中小も使える仕組みを提供していきたい」と話している。