大阪大谷大学博物館は10月2日から、小学生から楽しめる「おくすり大百科 目指せ!おくすり博士 歴史編」の展示を行っている。展示を担当した同大学薬学部薬学科教授の中田雄一郎氏が、日本の薬の歴史について語り、「薬は効果と副作用のバランスの中で使われているもの。薬を盲目的に使うことは問題。小さい頃から薬を理解することはとても大切なこと」と展示の意義を伝えた。
-薬って何?
野山に生えていた草木や動物を食べてみて、腹痛が治った、熱が下がった、気分が良くなったといったところから、何か効果があることに気付いて、それを分類してできたのが薬だと考えています。
-日本の薬の始まりは?
実際に薬として認識して始めたのは、推古天皇が今でいう奈良県の宇陀で薬草刈りを行い、宮中で薬草を使ったことが始まりではないかと理解しています。
-「くすりの神様」がいるそうですね。
伝説なので、実在したかどうかは分かりません。中国の古代の皇帝の一人、神農(しんのう)という方が、野山で薬になりそうなものを食べ、それが効いたり効かなかったりして、薬を作られた。それが中国での薬の始まりです。日本では、少彦名命(すくなひこなのみこと)という、これも神話上の伝説の方がいます。この中国の神農と日本の少彦名命が、日本での薬に関連する最初の方だと理解しています。「神農さん」というと、関西の人は皆知っていて、特に薬業界の人はよく知っています。大阪市の道修町(どしょうまち)に少彦名命の神社があって、そこに神農と少彦名命が祭られています。一般的には少彦名(すくなひこな)神社と言わずに「神農さん」と呼び、親しみを持ってお参りさせていただいています。
-展示に忍者が登場していますが、忍者が薬と関係ある?
甲賀地方では、山伏が修験道といって近隣の山でトレーニングをしていて、薬になるような植物、動物を知っていました。忍者も同じ里に住んでいたから、そういう知識を知るようになったのだと思います。忍者は科学知識をたくさん持っていました。爆薬とかも作っていますし。だから、科学者でもあったのかなと思います。
山伏は、祇園社とか近江の多賀大社とか、そういうところのお札を全国で売り歩いていたんですね。明治になって神仏分離、修験道禁止のお触れが政府から出て、実は山伏の仕事がなくなったんです。山伏は全国各地を巡り歩いていたことで地の利もあるし、いろんな地方に知り合いがいた。そこで、地元甲賀で作った薬を持って行ったのが売れて、配置販売業みたいに全国各地で売り始めた。それが、置き薬という配置販売業に転換していったのではないかといわれています。実際、そういう資料もたくさん残っています。
-現代の薬の特徴は?
皆さんお使いになるのは、最近はジェネリック医薬品が多いかと思います。新薬が開発された後、新薬はいろんな特許で守られていますので、その特許が切れて、かつ「市販後調査」という、ある一定期間、薬の安全性を市場に出して確認する作業があるんですが、それで安全性を確認して、この薬は使っても大丈夫ということがはっきりした後、ジェネリック医薬品がようやく出てきます。ですから、ジェネリック医薬品とは、安全性が確立した後に出る、新薬に代わるものと理解していただければいいと思います。
-ジェネリック医薬品には、安全性以外にも特色がある?
新薬で使いにくかった部分に工夫を加えられることも、ジェネリックの特色です。例えば、錠剤の大きさ。お年寄りは大きな錠剤だと飲みづらかったけれど、ジェネリック医薬品にする時に、小さくして飲みやすくしたり、口腔内崩壊錠といって(口の中で溶けて)水がなくても飲みやすくしたりしています。
-一般の人も、薬についてもっと知るべきなの?
今までは、医者や薬剤師から「この薬を服用してくださいね」と言われて、それを飲むだけでしたよね。ところが、国民一人一人が薬に責任を持って知識を増やさなければいけないということが、初めて薬機法(医薬品医療機器等法)で定義されました(第一条の六「国民は、医薬品等を適正に使用するとともに、これらの有効性及び安全性に関する知識と理解を深めるよう努めなければならない」=平成25年薬事法改正で追加)。なぜなら、薬は効果と副作用のバランスの中で使われるものなので、薬のことをちゃんと知らないで盲目的に使うことは問題だ。そういうことも含めて小さい頃からちゃんと理解することはとても大切だ。自分の体を守ることも、家族を持てば家族の健康を守ることもとても大事なので、ぜひ知っていただきたいという意味で、薬機法に載せられたんだと思います。載せるだけではなく、学校教育で薬のことを勉強してくださいということで、いろんな啓発資料が配布され、国民の責務が果たされつつあると理解しています。
-現代人は薬の知識が足らな過ぎるということ?
知識が不足しているというより、薬の種類が増え過ぎて、それに知識がついていかないと理解した方がいいかと思います。昔は、配置販売で各家庭に薬が置かれていたと思うのですが、せいぜい風邪薬、熱冷まし、腹痛薬くらいですよね。それくらいの知識であれば、持って来た側が説明して理解できたでしょうけれど、今はその数倍から数百倍の薬があって、これは何だろうと思うのは仕方がないことだと思います。だからこそ疑問点があれば、薬剤師や医者に聞いてもらいたいと思っています。そういうことができることが、国民の責務になると思っています。
-大阪大谷大学博物館で、今どんな展示をしている?
「おくすり大百科 目指せ!おくすり博士 歴史編」ということで展示させていただいています。見ていただきたいのは小学校3〜5年生ぐらいからで、薬のことを話しながら学習して、親御さんも一緒に理解してもらえるとありがたいです。それが今回の展示の目的になります。展示の目玉は、個人的に興味のあった忍者。甲賀市くすり学習館館長の長峰透先生に、「山伏と甲賀忍者、そしてくすりを語る」というタイトルで、歴史も詳しい方なので、忍者と山伏と薬のことも含めて楽しくお話しいただけると思いますので、ぜひお越しください。
「おくすり大百科 目指せ!おくすり博士 歴史編」展示は11月25日(土)まで。博物館講座「山伏と甲賀忍者、そしてくすりを語る」(甲賀市くすり学習館館長・長峰透氏)は11月11日(土)14時から。
展示チラシURL https://www.jga.gr.jp/assets/uploads/2023/19e3537fac6fe454ae6100d980a65e88625f5df8.pdf