1本64円の強炭酸水を水道水で薄めて弱炭酸水にして飲んでいる。酒の代わりに。シンプルに金が無いから。
エレガンスを名に冠する雅楽の演奏を生業(なりわい)にはしていても、生活は雅(みやび)と程遠い。雅楽奏者は管楽器と絃楽器どちらも演奏するから両方買わなければいけないし、装束にもお金がかかる。現代の平安貴族は食わねど高麗拍子(こまびょうし)である。
お正月に雅楽を耳にした人も多いだろう。「雅楽って神社の音楽でしょ」と言われるが、実はお寺とも縁が深い。いわゆる「初詣のとき聴く雅楽」は基本的に「唐楽(とうがく)」と呼ばれるジャンルで、元々仏教の伝来とともに遣唐使達が大陸から日本へ持ち帰ったものだ。中国では宴会用の音楽として用いられていたものが、日本に伝わって儀礼音楽として奏されるようになり、東大寺の大仏開眼供養会(だいぶつかいげんくようえ)など大規模な仏教法要で演奏や舞が披露された。現代でも、お寺と神社どちらでも雅楽は演奏されている。
どうしても「厳格」「神聖」といったイメージが付き物の雅楽だが、実はコミカルな演目も多い。「胡徳楽(ことくらく)」という舞では、6人の舞人が酒を酌み交わし終(しま)いには酔いつぶれ、酩酊(めいてい)して転ぶ者、盃(さかずき)を放り投げる者、舞台端で吐き出す者、相撲を取る者など阿鼻(あび)叫喚の様相である(舞う人のセンスにもよる)。酔っ払い達がつける赤ら顔の面は、鼻がブラブラと動くようになっている。酔わない人の面は鼻が動かないようになっているから、「酔うと鼻がブラブラするものだ」という感覚で面を作ったのだろう。当時の人の笑いのセンスが伺えてなかなか面白い。
舞台上でお料理を始めてしまう舞もある。「河南浦(かなんふ)」というその演目では、しわくちゃに笑った面をつけた料理人が包丁を振るい大きな魚の造り物を三枚おろしにしてみせる。しかし、それをお偉いさんにご提供しなければいけないのに、つまみ食い…というか結構な勢いで本気食いしてしまい、更(さら)には酒まで飲み始め、それがバレて怒られるとびっくりして喉に骨をつかえさせてしまう。結局その骨まで酒で飲みくだし、最後は魚の骨を片手に酔っ払い踊りを披露するというおちゃらけぶり。最初から最後まで笑いに溢れた舞だ。
雅楽には兎角(とかく)酒に関する演目が多い。ルーツの一つが宴会音楽なのだから、酒を酌み交わし笑いながら雅楽を楽しむような姿勢もなんら問題が無いだろう。いい雅楽を吹くために経費で酒が買えないだろうかと楊枝(ようじ)を舐(な)め舐めぼんやりする日々である。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 4からの転載】
かにさされ・あやこ お笑い芸人・ロボットエンジニア。1994年神奈川県出身。早稲田大学文化構想学部卒業。人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のアプリ開発などに携わる一方で、日本の伝統音楽「雅楽」を演奏し雅楽器の笙(しょう)を使ったネタで芸人として活動している。「R-1ぐらんぷり2018」決勝、「笑点特大号」などの番組に出演。2022年東京藝術大学邦楽科に進学。