カルチャー

Tani Yuukiさん魅力考察 【山崎あみ コラム音楽の森】

 愛してるよMyra 腕の中でmy love…。柔らかなラブソング「Myra」が、10代を中心にSNS(交流サイト)で爆発的に広まったのは、2020年5月、新型コロナウイルス禍のさなかでした。歌っていたのは1998年生まれのシンガー・ソングライター、Tani Yuukiさんなのですが、なんとこの曲は、自身が初めて投稿してみた音源! ノープロモーション、ノータイアップにもかかわらず、ストリーミング累計再生回数が1億回を突破しました。

 翌年発表したシングル「W/X/Y」は、リリースから約半年後、やはりSNSで火が付いて、TikTokだけでも再生回数が10億回超え。「ビルボードジャパン」と「オリコン」両方のチャートで2022年のストリーミング曲年間1位に輝く快挙を達成しました。インターネットを通じて、誰もが楽曲を世界に発信できる時代ですが、だからこそ大量の音楽がひしめいています。大ヒットを1曲生むだけでも大変なことなのに、その自己ベストを大きく更新してしまうなんて。今ではライブやテレビ出演など〝リアル〟な場でも愛されるアーティストとして活躍しています。

Tani Yuuki「HOMETOWN」(通常盤)

 こんなにも人を引きつける魅力は何でしょうか。まず挙げたいのは、優しい歌声とスキルです。高校生の頃からアカペラグループの一員として活動してきたTaniさんは、音の強弱、抑揚、息の抜き方の使い分けが巧みです。息を抜くのは歌詞の語尾だけではありません。注意して聴くと、例えば同じ子音「t」が付く音でも、曲調と言葉に合わせて発音を細かく変えています。さらに時折、声帯を閉じながら出す声「エッジボイス」も瞬間的に効かせているんです。高い技術で「抜け感」や「エッジボイス」を違和感なく混ぜ合わせることで、歌の表情がより繊細で豊かになっていると感じます。

 そして、覚えやすいメロディーの反復と、心地良い韻の多用。これがあるので何度も聴いてしまいます。押韻の効果で印象は軽やかなのですが、詞の内容は実体験をかなりリアルに反映していて、「Myra」は過去の失恋への未練を昇華しようと書いたそうです。等身大の恋愛描写が共感を呼びます。

 Taniさんとお話ししたことがありまして、楽曲と同じくとても物腰柔らかな方です。幼い頃から歌うことが好きで、スーパーで迷子になった時も、サザンオールスターズの「涙のキッス」を繰り返し歌っていたので、見つけてもらいやすかったそうです。かわいい(笑)。現在Taniさんは、初のEP「HOMETOWN」をリリースして全国ツアーを行っています。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.31からの転載】

山崎あみ(やまざき・あみ)/1997年生まれ、東京都出身。音楽大卒。interfm「MUSIClock」(略称みゅじろく。月―木曜午前7時)メインDJ。YouTube番組「山崎あみ『うるおう』リコメンド」(うるりこ。共同通信社制作)金曜出演。初の写真集「Cantabile」発売中。