アニメ映画監督の宮崎駿さんは、ある記者会見で、作品を通して伝えようと意識してきたメッセージは何かと問われ、「基本的に子どもたちに『この世は生きるに値するんだ』ということを伝えるのが自分たちの仕事の根幹になければいけないと思ってきた」と答えた。
国際情勢の不確実性の高まりを受け、日本社会の現状に「希望」よりも「不安」が増える傾向にある中、「私たちはどう生きるのか」へのヒントにつなげてもらい、「それでも、この世は生きるに値するんだ」というメッセージが込められたイベントがある。
それは、日常のささやかな行為かもしれないけど、人が他者を助ける、助けられるという事例を発掘して顕彰する懸賞作文コンテスト「小さな助け合いの物語賞」だ。相互扶助を理念とした、全国の信用組合で構成される、一般社団法人「全国信用組合中央協会」(全信中協)が毎年実施し、2025年度で16回を迎える。
全信中協の懸賞作文担当者は「相互扶助という信用組合の理念に加え、助け合いの大切さをさらに多くの人々に理解していただきたく、2025年度も6月1日(日)~9月5日(金)までの約3カ月間『小さな助け合いの物語賞』の募集を実施しますので、奮って応募いただきますようお願いいたします」と呼びかけている。

▼「素敵に成長しているんだね」
昨年10月、東京都内で開催された表彰式で「第15回 小さな助け合いの物語賞」の最優秀「しんくみ大賞」に選ばれたのは、栃木県の中学生・原口眞帆さんの「声かけはエール」だった。原口さんは小学5年生のときに、脳腫瘍が見つかり、手術、治療のために、約9カ月の入院を経験した。作文は、同じ病院の患者の「名前も知らないおじさんとおばさん」との出会いをつづった。
第15回「小さな助け合いの物語賞」受賞作品はこちら
https://www.shinyokumiai.or.jp/overview/about/writing15/
原口さんの治療時は2021年で、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた。このため、面会は制限され、家族にも会えないという心細い入院生活を原口さんは強いられた。そんな中、病院内の「お出かけ先」が、放射線治療を行う場であった。
ただ、子どもは一人もおらず、出会う患者はすべて大人であった。そんな「お出かけ先」で、原口さんは「あと何回治療はあるの?一緒に頑張ろうね」などと笑顔で声をかけられた、という。コロナ禍で、家族とも会えない状況の中、「とてもうれしく、勇気をもらった」。
大人たちからの何げない言葉の数々により自分の「気持ちがどれだけ軽くなったか」と振り返り、「孤独になりがちな入院生活だったけど、知らない人同士で気軽にコミュニケーションを取ることは、年代を超えてできるのだ」と痛感した。原口さんは「助け合いって難しいことではなくて、声かけ一つでできてしまうと思う」とあらためて気付いた。病院で声をかけてもらった自分が退院後、あいさつや声がけを積極的に行い、「誰かのエール」になれるよう頑張りたい、と決意したという。
「しんくみ大賞」を受賞後、地元に戻った原口さんは「全信中協さんのサイトから、私の作文を読んでくれた知り合いの方々から、闘病のことを知り、『すごく頑張ったんだね』『たくさんの経験をして、人の気持ちに寄り添って素敵に成長しているんだね』『作文を読んで涙が出ちゃった』などと声をかけてもらい、とてもうれしかった」と喜びを語った。
また、職場体験で小学校に行ったとき、算数の授業中に、ある1年生が困っている様子で、原口さんが声をかけた。「1年生の目線で、その子のペースで話を聞いてあげ、アドバイスをした」ところ、児童は「分かった! ありがとう!」と言ってくれて、うれしさと自分なりの達成感があった。原口さんは児童の「ありがとう!」という言葉がストレートに響き、「素直な言葉が1番伝わる」とあらためて気づかされたという。
現在、地元のボランティア活動に参加し、地域のイベントやお祭りを盛り上げている原口さんは、将来について「今回の入院では、多くの人に助けられ、支えてもらいましたので、恩返しとして、だれかの助けになれるような仕事に就きたい」と抱負を教えてくれた。

▼パラパラ漫画動画を公開中
「小さな助け合いの物語賞」の作文募集は、信用組合の基本理念である相互扶助の精神を広く知ってもらう目的でスタートし、2025年度で16回目を迎える。
第15回は全国から2686編の応募があり、しんくみ大賞のほか、大賞に次ぐ高評価のしんくみきずな賞1編、18歳以下の応募者の優秀作文に贈る未来応援賞2編、人に対する思いやりなどが感じられる作文に贈るハートウォーミング賞13編の個人受賞作品計17編と、作文応募に寄与した団体の功績をたたえる団体賞を一つ選んだ。
このほか、児童、生徒の豊かな心をはぐくむ「道徳教育」(徳育)の奨励を目的に、団体応募の中で最も応募の数が多い学校を表彰する「徳育奨励賞」がある。前回は、新潟市立巻東中学校が輝いた。巻地区の住民たちは、生徒たちに気軽に声をかけたり、手を差し伸べたりすることが日常的で、地域の温かい見守り体験を基に、生徒たちが夏休みの自由課題として「小さな助け合いの物語賞」に多数応募した。
全信中協は、受賞作品を活字だけではなく、視覚からでも楽しんでもらおうと、原口さんのしんくみ大賞のほか計4作品を、パラパラ漫画動画でも公開。信用組合業界の動画プラットフォーム「しんくみバンク公式YouTubeチャンネルで配信している。「動画は活字とまた違った魅力があります。パラパラ漫画動画を通じ、ハートフルな物語を味わってみてください」(全信中協の懸賞作文担当者)と話している。
しんくみバンク公式YouTubeチャンネルはこちら
https://youtube.com/channel/UClZkVZpwkcN6tjpiHsOmDCg?si=C2TxpC5dZsRZdtgW
パラパラ漫画動画を公開中

▼「心温まる物語を楽しみに」と桜井さん
「小さな助け合いの物語賞」の式典では、信用組合のイメージキャラクターによる、受賞作品の朗読が行われる。第15回では、俳優の桜井日奈子さんが登壇した。原口さんの「しんくみ大賞」と「しんくみきずな賞」の二つの受賞作文を、朗読して紹介した。情感豊かな表現力で、2人の受賞者が作文に込めた気持ちを臨場感たっぷりに再現すると、会場は静寂に包まれ、桜井さんが読み終えると、来場者から大きな拍手がわき起こった。
第15回懸賞作文「小さな助け合いの物語賞」朗読(桜井日奈子さん)動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=l9Lbxyj2qoQ&t=13s
桜井さんは「信用組合は、利益よりも地域の人や地域社会の発展を目標にした金融機関であることを知り、私もその力添えをさせていただけるなら、という思いを込めて朗読しました。第16回を迎える2025年度も、全国から応募される心温まる物語に出合えることを楽しみにしています」と期待感を示した。
■懸賞作文「小さな助け合いの物語賞」
第16回(2025年度)の応募期間は2025年6月1日(日)~9月5日(金)となっており、応募詳細は6月1日(日)から下記よりご覧になれます。
https://www.shinyokumiai.or.jp/overview/about/pr.html#writing