カルチャー

4手ゆえの立体感 【コラム 音楽の森 柴田克彦】

 今回ご紹介するのは、4手ピアノ、すなわち2人の奏者によるピアノ連弾の演奏である。この形態は、内輪で弾く楽しみといったイメージがあり、〝鑑賞する音楽〟としては、同じピアノでもソロや協奏曲に比べて接する機会が少ないと思われる。

 そうしたピアノ連弾曲における史上最大の作曲家が、〝歌曲王〟の形容で知られるシューベルトだ。彼は31年の短い生涯に30もの連弾曲を残している。そしてこの形態の最高傑作と称されるのが「幻想曲 ヘ短調」。本ディスクには、同曲を含む彼が亡くなる1828年に書かれた四つの連弾曲が収録されている。

 演奏しているのは、1981年フランス生まれのベルトラン・シャマユと、1970年ノルウェー生まれのレイフ・オヴェ・アンスネス。共に世界的な一流ソリストで、特にアンスネスは筆者が〝現代最高〟と信じる名手である。

 2人は2016年に、アンスネスが創設したノルウェーのローゼンダール室内楽フェスティバルで初めて共演し、まさしくシューベルトの「幻想曲」で絶賛を博している。

 1台のピアノを2人で弾く連弾は、各々(おのおの)が個性を持つプロ奏者の場合、より難しさを増すに違いない。それは、音楽的な解釈、タッチや強弱など、合致させるべき要素が多いからだ。

 だが本ディスクでは、4手ゆえの立体感と2人の一体感が共生した見事な音楽世界が展開されている。

 ここには、「幻想曲」「アレグロ」「フーガ」「ロンド」という4曲が収められ、「幻想曲」と「ロンド」では、アンスネスがプリモ(第1奏者。高音部の主に旋律を担当)、シャマユがセコンド(第2奏者、低音部の主に伴奏を担当)を、残り2曲では各自がその逆のパートを受け持っている。こうした曲想に則した分担も的確だ。

 中でも、「幻想曲」の変幻と「アレグロ」の劇的表現は実に素晴らしい。「幻想曲」は、四つの部分からなるソナタのような作品だが、第1部と第4部のしみじみとした味わい、スケルツォ風の第3部の生き生きとした躍動感は、特に聴きもの。この曲は馴染(なじ)みのない方もぜひ一度耳にしてほしいと強く思う。

 これは、ピアノ連弾という演奏形態とシューベルトの底知れぬ魅力を再認識させる貴重なディスクといえるだろう。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.5からの転載】

柴田克彦(しばた・かつひこ) 音楽ライター、評論家。雑誌、コンサート・プログラム、CDブックレットなどへの寄稿のほか、講演や講座も受け持つ。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる!吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。