国民的作家ともいえる司馬遼太郎。今年、生誕100年を迎えるのに伴い、司馬遼太郎記念財団(大阪府東大阪市)はインターネットなどで「好きな司馬作品」アンケートを行った。応募者は数多くの名作の中から好きな作品を選ぶのには苦労したことだろう。
1位は『坂の上の雲』(21.8%)だった。明治という時代を、近代文学に影響を与えた正岡子規、日露戦争で能力を発揮した秋山好古・真之兄弟らを登場させて描いた作品だ。1968年から72年に産経新聞で連載された。累計発行部数は2000万部に迫っている。
2位には『竜馬がゆく』(15.7%)。幕末の動乱期、土佐の郷士の家に生まれた坂本竜馬は、型破りな考え方で薩長同盟、大政奉還など歴史の流れに大きな影響を与える。「維新史の奇跡」といわれた竜馬の生涯を描いている。1962~66年に産経新聞に連載。約2500万部。
3位は『燃えよ剣』(10.9%)。武州多摩でけんかに明け暮れていた土方歳三。近藤勇ら天然理心流の同志とともに京へゆき、新選組を最強の機能的組織に育てあげる。剣のみを信じ、激動の時代を走り抜けた男の生涯を描く。1962~64年に週刊文春に連載。およそ520万部。
4位は『街道をゆく』。日本国内そして海外を歩き土地に住む人々の言葉に耳を傾け、それぞれの地域に刻まれた歴史の記憶を呼び起こした文明紀行。日本人のルーツや、世界に視野を広げて文明の原点を探った。亡くなるまで全43巻、25年2カ月に及ぶ最長の連載となった。1971年から96年まで週刊朝日で連載。累計発行部数は1200万部超。
5位は『峠』。越後長岡藩の家老河井継之助は藩を武装中立国にしたいと考え奔走する。封建制度の崩壊を予見しながらも、武士道を貫き、藩を率いて、官軍と戦う、その生涯を通じて、「侍とはなにか」を考える。1966~68年に毎日新聞で連載。およそ400万部。
以下、6位は、幕末の変革の時代を背景に洋式兵学の指導者として討幕戦を率いた村田蔵六(大村益次郎)の生涯を近代医学の黎明(れいめい)期とともに描いた『花神』、7位は、自らの正義を信じ、中世的秩序を破壊し、近世を創造する先駆者となった斎藤道三、そしてその思想を引き継ぐ娘婿の織田信長と甥の明智光秀を描く『国盗り物語』。
8位は、淡路島に生まれた嘉兵衛は廻船問屋高田屋を興し、北方の漁場を開くものの日露の紛争に巻き込まれロシアで捕虜の身となりながらも両国の平和のために尽力する姿を描く『菜の花の沖』。9位は、秀吉の死から始まった徳川家康の野望とそれを阻止すべく立ちあがる石田三成―天下分け目の関ヶ原の戦いを壮大なスケールで描く『関ヶ原』。
10位は『世に棲む日日』。幕末、封建制度をつきくずし、幕府を倒す主力となった長州藩。この藩を最大の革命勢力に変えたのは、吉田松陰という若者の言動だった。松陰の思想を受け継いだ高杉晋作が革命家となり行動を起こす姿を描いた作品だ。
男性の1位は『坂の上の雲』、2位は『竜馬がゆく』、3位は『燃えよ剣』。女性のトップ3は、『燃えよ剣』、『坂の上の雲』、『竜馬がゆく』だった。年代別の1位は、10代、20代、30代がいずれも『燃えよ剣』、40代以上は『坂の上の雲』だった。
初めて司馬作品を読んだ年代は、20代が一番多くて全回答者の31.8%。次いで10代の28.2%、30代の15.0%、40代の12.3%となった。その後、作品を「読み返しているか」と聞かれて、78.7%の人が「読み返す」と答えた。
「次世代におすすめの司馬作品」についても尋ねており、1位は『坂の上の雲』、2位は『竜馬がゆく』、3位が『街道をゆく』、4位が『燃えよ剣』と順当な作品が並んだあとの5位に『二十一世紀に生きる君たちへ』がランクインした。
アンケート調査は、司馬遼太郎記念館ホームページおよび記念館に設置した投票用紙で、2022年10月1日から11月15日まで行われた。総回答数は1567人。小学生から90代まで、幅広い年齢層から回答があった。男性が71.4%、女性が26.9%だった。
1923年、司馬遼太郎は大阪市に生まれた。大阪外国語大学蒙古語部(のち大阪外大、現在の大阪大学外国語学部)卒業。1960年、『梟の城』で直木賞受賞。66年の『竜馬がゆく』、『国盗り物語』による菊池寛賞初め、多くの賞を受賞。96年2月12日、死去。
司馬遼太郎記念財団は、司馬遼太郎が亡くなった1996年の秋から活動を開始した。親交のあった友人らをはじめ、マスコミ11社、大阪府、東大阪市が理事として参加、司馬遼太郎の精神を後世に伝えるため、遺産の一部を使って運営してきた。
2012年、内閣府から「公益財団法人」の認可を受けた。文化情報の発信を担い、さまざまなことを自由に考える空間としての記念館の運営、司馬遼太郎賞、若い世代の知的探求心を奨励するフェローシップ、また、命日の2月12日前後に毎年、東京、大阪交互で開く菜の花忌シンポジウムなどの事業を行っている。