-恋人でありながら緊張感のあるカナとハヤシの関係は、そういう山中監督の演出が生んだものかもしれませんね。現場の様子はいかがでしたか。
河合 ワンシーン、ワンシーン、みんなが面白がりながら撮っていました。「このシーン最高!」みたいな空気が毎日のように漂い、カメラマンの方も「毎日楽しい」と言っていて。もちろん、緊張感のあるシーンもあるんですけど、映画作りをみんなが楽しんでいましたよね。
金子 ものすごく楽しんでいたね。若い人たちが集まっていたせいか、熱量も高くて。しかも、仕事ではあるんだけど、それ以上にクリエーティブなことを考える人たちばかりでした。
河合 山中監督も「毎日、全シーン面白いんですけど、面白いシーンを立て続けに見ることが映画なんでしたっけ? わからなくなってきました」と言っていて(笑)。それくらい毎日、見たことないものができている実感はありました。
-現場でリーダーシップを取る方はいたのでしょうか。
金子 ぐいぐい引っ張るわけではありませんが、山中監督と河合さんが、現場を作っていた気がします。みんなが山中監督を信じ、監督が「うーん…」と考え込んだときも、誰もがその決断を信じて待って。さらに、そういう山中監督の思いを河合さんがいち早くつかみ、現場を締めてくれました。だから、撮影が止まっても、何の不安もなかったです。むしろ、「山中監督を悩ませた方が面白いのでは?」と思ったくらいで。
河合 山中監督には、みんなが寄り添いたくなるようなところがあるんですよね。「このシーン、どうしよう?」となったとき、みんなが監督の中にあるものをすくい取りたくなるような、人を引き寄せる力がある。私自身、「誰も見たことのない面白い映画を作るんだ」という監督の思いを絶対的に信頼していたので、積極的にそれをキャッチしに行きたくなりましたから。
金子 みんながこの作品を良くしようと思って動いたのは、山中監督の人柄のたまものだよね。そういう姿勢がすてきで、今まで経験したことのない現場のあり方だと思った。おかげで、とても濃密な経験ができ、最高の現場だった。
-現場の雰囲気の良さがうかがえるお話ですが、その結果、完成した映画の印象は?
金子 最初は自分の芝居が気になり、冷静に見られませんでしたが、2度目はすごく面白く感じた上に、カナが本当に魅力的で。かっこ悪いんだけど、かっこよくてかわいい、みたいな、一言で言い表せない不思議な魅力があり、今までいそうでいなかったキャラクターだなと。
河合 私も最初は冷静に見られませんでした。でも、2度目に見たら、やっぱりすごく軽やかでかっこいい映画だなと。取っ組み合いのケンカをしたり、かなり激しいことが起きるんですけど、明るいんですよね。山中監督が「元気が出る映画」と言っていましたが、ポジティブなエネルギーをもらえる映画になったんじゃないかなと。
金子 カナの熱量が高すぎて、人によってはくらくらしちゃうかも(笑)。
河合 そうかもしれませんね。生命力があふれすぎていて(笑)。
金子 でもそんなふうに、見る人からいろんな感情を引き出すということは、いい映画なんだと思う。
河合 自分が演じた分、完全に客観的にはなれませんが、私もカナが大好きです。不器用な女の子で、「駄目だよ」「そんなことをしても意味ないよ」「いつか彼氏たちに謝りなよ」とか、言いたいことはたくさんあるんですけど。でもいつかきっと、カナは自分のことも他人のことも大切にできる気がします。
-本作は2024年の第77回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞しました。お二人も映画祭に参加しましたが、感想は?
河合 うれしかったです。ただ実は、クランクアップする頃には、この映画はすごいところに羽ばたいていくんじゃないか、という予感はありました。さすがにカンヌの受賞までは予想できませんでしたが。だから、うれしさと同時に「やっぱり!」という気持ちも少しありました。
金子 僕も作品には自信があったけど、文化が違う国の人に、カナの魅力が伝わるのか半信半疑でした。でも、カンヌでは皆さんがすごく楽しんでくれて。日本映画が世界に通用することを実感し、自分に自信がつくと同時に、さらに頑張ろうとモチベーションが上がった。
-河合さんは念願の山中作品への出演が実現した今、どんな手応えを感じていますか。
河合 経緯を含めて、これまでの人生でこういうことは他になかったので、私にとって山中監督は特別な存在です。だから、またご一緒したいと思っていますが、軽々しくそう言えない怖さがあります。今回宝物のような経験ができた分、それ以上の作品にしなければ、というプレッシャーもあって。でも、必ずまた一緒に映画を作りたいです。
(取材・文・写真/井上健一)
9月6日 TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー