-ドラマから映画まで演じ続けた孔明は、向井さんにとってどういう役になり、どういう存在になりましたか。
まさか3年間もこの格好をするとは思わなかったです(笑)。『三国志』自体はもちろん知っていましたし、分厚い漫画を読んだこともあるので、登場人物とかは何とか分かりますが、まさか自分がやるとは思ってもいなかったです。今までいろんなキャラクターを演じてきて、面白がってやったものもたくさんありますが、その中でも孔明は特に独特なキャラクターだと思います。孔明も、コメディーっぽいのもあれば、映画『レッドクリフ』のようなものもあり、作品によって全然テイストが違います。でもこの孔明は、そのどちらでもない、全く違うエンターテインメント性にあふれたキャラクターなので、アイデアとして面白いと思っています。そしてドラマを作る上で、すごく見やすい構成になっているので、キャラクターだけではなくてシナリオ構成もすごく秀逸だったと思います。個人的には「ああいう役もやるんだね」とよく言われるので、いろんな役を演じていかなければいけない仕事としては、また一つ引き出しが増えたというか、幅が広がったかなと思います。
-コメディーを演じることについてはどう考えていますか。
コメディーにはいろんなパターンがありますが、大きく分けると、自分からボケに行くタイプと、一生懸命にやっているが故の滑稽さとに分けられると思います。今回は後者の方だと思っていました。連ドラの時も、クランクインする前に監督と食事をしていた際、「僕からはボケたくないです」と話しました。本人がボケるのではなく、周りとのギャップで面白い雰囲気が出せるものが本当のコメディーだと思っています。なので「コントはやりたくない」と言った気はします。監督も同じ意見だったので、無理に何かをやらされることはなかったです。とにかく一生懸命生きている人の方がギャップがあって面白い。それでもう十分にくすっと笑えると思います。
-20代の頃だったら迷っていたことが、今は迷わなくなったようなことはありますか。
孔明は20代ではできなかったと思います。先ほどお話ししたコメディーに対する捉え方が年々変わってきたというのもありますし、孔明のキャラクターは、いろいろなテクニックがないと乗り越えられなかったと思います。孔明はすごくシンプルなのですが、台本にない歩き方や服のさばき方、しゃべり方というのは、今までの経験がないとできませんでした。2時間の映画の中でも、孔明のキャラクターは、ちゃんと感情でお芝居をする部分と、ちょっとテクニックが必要なシーンがいくつかありました。僕はテクニックがあまり好きではないので、なるべく使いたくないのですが、どうしてもテクニックに頼らなければならないシーンがいくつかありました。それは役者としての経験則という意味でも、多分20代ではできなかったと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)
