社会

「石破続投」に垣間見られる大きな不安 【政眼鏡(せいがんきょう)-本田雅俊の政治コラム】

 先の参院選で与党は大敗を喫した。石破茂首相は自公両党で「50議席以上」の最低ラインを“必達目標”としたが、3議席ながらも及ばなかった。歴代首相の辞任劇に鑑みれば、石破首相の辞任は避けられないはずだ。例えば1998年参院選の直後、橋本龍太郎首相(当時)は「すべてをひっくるめて私の責任」と言葉少な気に官邸を去った。だが、石破首相は“辞任”ではなく“続投”を表明して多くの者を驚愕(きょうがく)させた。

 間もなく終戦記念日を迎えるが、80年前、吉田茂が外相就任に応じる際、GHQ(連合国軍総司令部)に「負けっぷりのよさ」を示すと意気込んだ。スポーツでも、率直に敗北を認めて勝者を称える姿に心を打たれることがある。好き嫌いはともかくも、衆院選、都議選に続いて3敗目を喫した石破首相にもまさに負けっぷりのよさ、引き際の潔さを期待していた国民は多い。

 「石破さんには自分の論理があって、あの通り、実に頑固だ」(閣僚経験者)という。別の言い方をすれば、打たれ強く、鋼の精神力を持っていることなのだろう。あえて「いばらの道」を歩もうとする姿は、兵庫県の斎藤元彦知事や伊東市(静岡県)の田久保真紀市長と共通するところもある。一昔前ならば「令和の団子三兄弟」と称されたかもしれない。

 その一方、各種世論調査を見ると、石破首相の続投を「支持する」者は意外に多い。JNNが8月2、3の両日に行った調査によると、「辞任すべき」が43%であったのに対し、「必要はない」は47%に達した。「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと」の歌詞が有名な『それが大事』は今でも励ましの曲として歌い継がれているが、「#辞めるな」の声にも支えられ、石破首相は続投の意を一層強くしているのかもしれない。

 内閣支持率が著しく低迷しているとはいえ、純粋に石破首相の“これから”に期待を寄せる者がいるのも確かだ。石破首相のいんぎんな国会答弁や低姿勢にプラスの評価を与える者もいる。そうした層にしてみれば、“必達目標”までわずか3議席足りなかったにすぎないと映るのだろう。衆目の一致するポスト石破候補が見当たらないことも、「石破続投」に有利に働いている。

 石破首相を熱心に支持する者の中には、今回の参院選の最大の敗因も、旧安倍派を中心とする裏金問題だと指摘する者は多い。だからこの裏返しで、石破首相への同情論さえある。そうした者たちにしてみれば、参院選敗北を受けて「石破降ろし」に動き出そうとする旧安倍派の面々には「おまゆう(お前が言うな)」と言い放ちたいはずだ。

 皮肉な「続投容認派」もいる。敵の敵は味方というが、石破首相が退陣すれば、保守色の強い者が後継になるのではないかとの懸念から、「#石破辞めるな」を支持しているのだ。「自民党内のリベラル派だけでなく、野党の中にも石破首相の続投を容認する声があるし、エールも送っている」(野党中堅)という。8月上旬の臨時国会における質疑でも、そうした微妙なスタンスを感じた視聴者は多い。

 石破首相が続投してくれたほうが、次の衆院選が戦いやすいと考える、したたかな容認派も野党にはいる。万が一にも「小泉進次郎首相」が誕生し、間髪置かずに衆院選が行われれば、今度は野党が大敗する可能性が高くなる。だから、自民党内の内紛を収められず、また“選挙のカオ”として役に立たない石破首相のままのほうが、野党にとっては実に好都合というわけだ。

 いずれの要因も否めないはずだし、容認派であっても人それぞれ理由は異なるだろう。しかし、JNNの調査では、「辞める必要がない」が47%だった一方、内閣支持率は37%にすぎず、そこに不思議な乖離(かいり)がある。「とりあえず石破」がその理由であればまだいいが、もしも「誰がなっても同じ」「何も変わらない」といった諦めが背景にあるとすれば、それはもはや各政党の勝ち負けのレベルの話などではなくなる。むしろ政治そのものが国民から愛想を尽かされつつある小さな、しかし、重大なシグナルだと受け止めるべきではないか。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。