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「越前和紙の発達が『源氏物語』の誕生につながった」 大河ドラマ「光る君へ」の題字制作者・根本知氏らが越前和紙の魅力と未来を語る(前編)

書家・「光る君へ」の題字制作者の根本知氏
書家で「光る君へ」題字制作者の根本知氏

 「源氏物語」の作者・紫式部の生涯を描くNHKの大河ドラマ「光る君へ」。中盤に差し掛かった物語は間もなく、吉高由里子さん演じる主人公のまひろ/紫式部が越前で過ごす「越前編」を迎える。これに関連して「越前編」の舞台となる福井県の主催により5月12日(日)、東京都内で「越前和紙のぬくもりと平安の息吹 ~福井に息づく『千年文化』を未来へ~」が開催され、「光る君へ」の題字制作者で書家の根本知氏による講演などが行われた。

  第一部の講演「書家から見た越前和紙の魅力」に登壇した根本氏は、自己紹介を兼ねて「光る君へ」題字制作の経緯と撮影の裏話を披露。当初、「書道指導」の依頼を受けて参加したところ、製作スタッフの目に留まり、題字制作も任されることになったのだという。ただ、その題字も簡単に出来上がったわけではなく、製作陣の要望を聞き、自身のこだわりも込めて作業を進めたところ、最終決定までに800枚も書くことになったとのこと。根本氏は題字制作について、「ご褒美」と喜びを語った。

  「書道指導」としては日々の撮影に立ち合うだけでなく、劇中でまひろ/紫式部や柄本佑さん演じる藤原道長などの主要人物が書く文や書類などの書き物もすべて、男性を根本氏、女性は根本氏の教え子が人物ごとに書体を書き分けて制作しているとのこと。その上、撮影時の手元のアップの吹き替えも2人で担当する多忙ぶり。しかも、劇中では開かれることのない「枕草子」の写本の中身まできちんと書いているそうで、風俗考証を務める佐多芳彦氏の「真実は細部に宿る」という言葉と共に、大河ドラマならではのこだわりが明かされた。

  続いて根本氏は、紙が発達してきた歴史を交え、伝統的工芸品にも指定されている越前和紙の魅力を語った。850年前の正倉院にその名が見える越前和紙の一つである檀紙については、紫式部が「源氏物語」の中で「麗しき紙」、清少納言が枕草子の中で「優れた美紙」とたたえていることを紹介。後に豊臣秀吉や歴代の徳川将軍も用いた高級品であり、現代では茶道に用いる「紙釜敷」にも使われている。

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講演の様子

  さらに根本氏は、越前市在住の和紙職人で、人間国宝の九代目・岩野市兵衛氏を訪ねたときのエピソードを披露。「自分自身が水と紙の素材と一体とならなければ、いい紙は梳(す)けない」「毎日、水の温度が違えば、素材の硬さも全部違うから、同じ紙は梳けない」などの言葉と共に、世界中の芸術家から注文が絶えない岩野氏の仕事ぶりを語った。

  話題は越前和紙と「源氏物語」のかかわりについても及んだ。紫式部が「源氏物語」を執筆できた裏には、平安時代、細かい文字が書ける細い筆が誕生し、墨が量産されるようになったことに加え、越前を中心に和紙作りが発達し、文字のにじまない紙が発明されたという事情が関係している。これらの技術の進歩が、それまでの短文とは異なる長編の執筆を可能にし、「源氏物語」の誕生につながったのだという。

  そして、「光る君へ」では当初、越前編の描き方が決まっていなかったが、福井県の人々の熱意と協力的な姿勢に番組スタッフ一同が感激し、「紙梳(かみす)きなども撮れたら」と話が広がっていったとのこと。これを踏まえて根本氏は「越前編では、紫式部が越前のもの作りに心動かされ、『源氏物語』の執筆につながっていくのでは」と今後の展開に期待を寄せた。

 (→第二部の模様は後編