カルチャー

【スズキナオが聞く“発酵する人々”】第1回 小倉ヒラクさんに「直会、神饌、神さまと発酵、取材のこと」を詳しく聞く

――高知の「おきゃく」については、先ほど食祭テラスで植野広生さんともお話しされていましたが、あれも直会から派生していったものなんですね。

 そうではないかと考えて見ていくという感じですね。おきゃくには、礼講があんまりないんです。

食祭テラスでは、おきゃくについてのトーク自体がおきゃくっぽい雰囲気で行われていた

――徐々に礼講の方はなくなっていったんですかね。

 たぶん、もともとはおきゃくとは別にフォーマルな神事があったんでしょう。まずは神事がいろいろあって、それが終わった後におきゃくが始まるという感じだったと思っています。それが多良間島の「スツウプナカ」になると、完璧に礼講と無礼講がちゃんと分かれているんです。村の長老のような人が口上を述べた後、無礼講のようになってみんなで祝い歌を歌ってお酒をたくさん飲むんです。与論島の「与論献奉」は名乗りのようなものがあって、割と儀礼的な部分が残っています。あれは直会的な部分だけを繰り返しやっているような形式で。

――直会のどの部分を残しているかとか、そこら辺で変わってくるんですかね。

 最初の直会とまったく無関係に生まれたものはあまりない気がするんです。この部分がデフォルメされてるとか、そういう違いはあるけど。いろいろなものが直会から派生していったんじゃないかと思いますね。高知のおきゃくでも、「皿鉢料理(大皿に様々な料理を盛り合わせたもので、おきゃくなどの宴席に用意されることが多い)」なんかは仏饌のようなところがあります。その一方で庭で鮎を焼いて食べたりもして、そこは神饌っぽいし。

――神饌と仏饌の二本立てがそこに残っていると。

 直会から派生していったものだとしても、それぞれに分化していく過程で、神事ではない形になっているものもあるんです。ただ、やっぱり礼講と無礼講の二本立てという部分と、食べ物と飲み物をペアリングして味わうという点は共通していると思う。礼講と無礼講って、僕の中では洗練されたものと野蛮なものっていう二本立てだと思っているんです。

――そこが面白いですね。両方を併せ持つというか、合間にあるような。

 神道的な発酵の起源って、やっぱり麹なんですね。米麹。米麹は基本的には甘酒と酒という飲料に使われていた。で、仏教の発酵の起源ってうまみなんですよ、みそとかしょうゆとか。米麹文化とうまみ調味料の文化のデュアル状態というのが、一つの日本の大きなアイデンティティーだと思っているんです。

――神饌の話に少し戻るんですけど、お酒にしてもあちこちでとられた食物にしても、そういうものをまず神様に捧げて、その後に自分たちでいただく時に、スピリチュアル的な意味合いでパワーを取り込むみたいな、そういう方向もあるかと思うんですが、その意味合いは直会にもあるんですかね。

 あるんだと思います。スピリチュアル的な、力を取り込むということと政治的なガバナンスって、古代の日本では多分一緒だったんだと思います。分けていなかったと思います。

2026年8月に『日本人の発酵史』を刊行する小倉ヒラクさん

――なるほど、知れば知るほど面白い世界ですね。直会の章が追加されてよりいい本になったんですね。

 そうですね。完璧な本になりました(笑)。タイトルも、もとの『オッス!食国』は少しわかりにくかったので、『日本人の発酵史』と改めて、日本人がいかに発酵食によってアイデンティティーを育んできたかということを知ってもらえる本になりましたね。

――2026年の8月に刊行されるんですよね。

 8月25日に発売されるんですけど、「発酵マーケット KOJI/麹」で先行販売しますので。

――楽しみにしています! 今日はありがとうございました!

 インタビュー終了後、小倉ヒラクさんは再び食祭テラスに戻り、「第4回どっぷり高知旅」のトークコーナーで、毎年3月に高知でおきゃくイベントを実施している実行委員会の方々とにぎやかに飲み交わしながらその文化を深掘りしていた。その楽しげな様子と、さっき聞いた直会の原型的なイメージとを重ね合わせながらトークを聞いていた。

※本記事は、ことさら出版との連携企画です。


スズキナオ(X/tumblr)
 1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』『家から5分の旅館に泊まる』(スタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。