地震、水害、交通事故・・・・・・。我々の身のまわりは危険に満ちている。愛する家族や友人が、いつ急病や突然の事故・災害に見舞われないとも限らない。ところが、救急車が要請を受けてから到着するまでの平均時間は、東京都内で7分45秒(平成27年実績)。これが震災や水害ともなれば、その時間はさらに延び、到着まで数時間ということも起こりうる。もし、その間に呼吸停止や心停止などの症状が認められたら、最悪の事態も覚悟しなければならない。そうなる前に行うべきは「救命」のための手当だ。居合わせた人が救命処置をした場合、救急車が来るまで何もしなかった場合に比べて、命が助かる可能性が高まるからだ。
では、まさかの時に何をすればいいのか。まず身に付けておきたい技術が心肺蘇生法、いわゆる心臓マッサージだ。横たわった人の胸に両手を当てて強く押しているシーンは、テレビなどではよく見かける。だが、この心臓マッサージ、やみくもに行ってもなかなかうまくいかない。日本蘇生協議会(JRC)が公表した救急蘇生のためのガイドライン(2015)をみると、いくつかの要求項目があるのだ。例えば、圧迫位置は胸骨の下半分、圧迫深さは約5cm以上6cm以下、リズムは毎分100~120回、圧迫比率は少なくとも60%以上・・・などだ。このように、効果的な心臓マッサージを行うためには正しい動作が要求され、そのためにはある程度の知識と訓練が必要だが、あなたはその講習を受けたことがあるだろうか? そして、その訓練を効果的に行うためのシステムがあるのをご存じだろうか?
心臓マッサージの訓練機「しんのすけくん」を開発した住友理工株式会社は9月21日、災害救護や医療事業に取り組む日本赤十字社に、48台の「しんのすけくん」を贈呈した。東京・港区の日赤本社で行われた贈呈式では、住友理工取締役専務執行役員の大橋武弘氏から、日本赤十字社事業局長の見澤泉氏に製品が手渡された。
住友理工の大橋取締役は「当社ならではの技術を生かした、心肺蘇生の正しい方法を習得できるシステムです。まずは使っていただき、認知していただくことが大切。それにより一人でも多くの命を救っていけたらという思いで、日本赤十字社の本社と47都道府県の各支社に1台ずつ、合計48台を寄贈させていただきます」とあいさつ。
それに応えるかたちで、日赤の見澤事業局長も「赤十字ではさまざまな講習を行っており、受講者は年間約80万人。そのうち救急法を受講する人は60万人にものぼります。それらの人たちが正確な技術を身に付けられればより多くの命を救うことができます。最近は災害も多く、大型地震への備えも必要です。そんな中、従来の救急法とは違った“災害”を念頭においた救急法も必要とされています。より正確な技術を習得できる『しんのすけくん』を技術の研鑽に有効活用していきたいと思います」と語った。
「しんのすけくん」の別名は、“胸骨圧迫 訓練評価システム”。つまりは心臓マッサージが正しく効果的に行われているかどうかを確認できるシステムで、訓練に使用する人形の胸部にセットするセンサーシートと、コントローラー、パソコン用ソフトウェアの3点で構成されている。このシステムのキモは、住友理工が開発した圧力を検知するセンサーシート。従来この種の製品に使われていたフィルム状のセンサーに比べ、柔軟性に富み復元力に優れている素材のため、訓練時に違和感がなく、正確な計測が可能になっているという。
「しんのすけくん」のすごいところは、胸骨の下半分を正しい位置、正しい深さ、正しいリズムで押せているかを、パソコンの画面でリアルタイムで確認できることだ。カラーマッピングで圧迫位置と深さを直感的に把握することができ、音声ガイダンスも備えているので、これまで勘と経験に頼っていた心臓マッサージを即時に判定し、是正することが容易になっている。まさに心臓マッサージの訓練の「見える化」だ。また、訓練を項目ごとに数字で表示しレーダーチャートや総合得点を算出することで訓練者のモチベーションを上げられ、計測データは保存も可能なので訓練の習熟度も把握しやすくなり、指導者の負担軽減も期待できるのだ。
1台128,000円(税別)という価格のため、一家に一台というわけにはいかないだろうが、企業・学校・自治体・各種団体などでそろえて訓練し、誰もが心肺蘇生法を行えるようになれば安心だ。なお、10月12日から14日に東京ビッグサイトで開催される「国際福祉機器展」の住友理工ブースでは、この「しんのすけくん」が体験できるとのこと。何よりも大切な命を救うための技術を訓練できる「しんのすけくん」、あなたもぜひ、どこかで体験してみてほしい。