■飾らない草花を愛でる「高知県立牧野植物園」
「雑草という名の草はない」
牧野富太郎博士の名言と言われている。新種や新品種を発見して1500種類以上の命名を行い、日本の植物学の父と呼ばれる。牧野博士の探究心と植物愛をそのまま引き継いだ牧野植物園(高知市)は、博士の死後の翌年、58年に開園。東京タワーと同い年だ。高知市郊外にある五台山の頂上付近に位置し、高知駅から車で20分程度。ふらっと立ち寄れる場所だ。
ラン展「百花繚蘭 美しきランの世界」が2月2日から開催されると聞き、南園温室を訪れた。入り口の塔を抜けると、じっとりとした熱帯の空気に包まれる。一気に白く曇った眼鏡のレンズが徐々にクリアになってくると、現れたのは温室を埋め尽くすような色鮮やかな花と緑。2万5千種もあるという世界中のランの中から、人気の5属を選び、名花がピックアップされ展示されている。しばらく絢爛さに圧倒されていたが、徐々に草花の細部にも目が留まり始めた。土に植わったものもあれば、木の幹に植栽されたランも。元からそこに生えていたかのように、自然でさりげない展示方法だ。ラン展=「鉢植えのコチョウラン」という短絡思考が覆され、感嘆していると、「それはフラワーショー。当園では自然の姿に近い展示を心掛けています」と牧野植物園広報の小松加枝さんが笑った。
温室の外は、裸の木が目立つ2月。旬の花を尋ねると、「バイカオウレン」という植物を紹介された。「牧野先生が晩年、お見舞いでもらったバイカオウレンの花に頬ずりをして高知を懐かしんだ、という逸話が残っています。1月くらいから咲き始める早春の花の一つで、葉の部分が当園のシンボルマークになっています」と小松さんは胸元のバッジを指した。
「梅花黄蓮」という字面から、木の枝に咲く黄色い梅花を想像しながら小松さんの後についていくと、通路脇の石積みの上に咲いていたのは、イヌノフグリのように小さな花だった。そのあまりの素朴さに驚いていると、「当時、牧野先生の生家があった佐川町(高知県中西部)の自生地ではぶわっと一面群生していました。息を呑むというのはこのこと、というぐらいに感動しました」と熱弁をふるう。日本の植物園にはフラワーパークのイメージがつきがちだが、本来は、人間の生活を支えている植物に感謝し、生きた標本を扱う研究施設であるべきだという。自生地さながらに、細やかな愛情を注がれ育てられている植物。牧野植物園ならではの独特の空気感は、牧野魂を受け継いだスタッフが、作り出しているのだろう。
新園地の誕生の瞬間にも出会った。五台山の高台に3月21日にグランドオープンする「こんこん山広場」が、一足早くお披露目された。水上元牧野植物園園長は、「建物はできたときが一番きれい。でも、園地はこれからだんだん成熟していきます。子どもたちは走り回り、若者たちは愛を語り、家族がお弁当を食べる。そういう園地に育て上げていきたい」と抱負を語った。まだ芝生も生えておらず、花木の苗は植えられたばかり。自然を憩いながら、成長していく植物の姿を見守るのも楽しみの一つとなりそうだ。
高知県立牧野植物園
088-882-2601
高知市五台山4200-6
www.makino.or.jp