元プロ野球巨人の高橋由伸さんが、監督を退いた後、さまざまな分野の人と対談を重ね、自己研さんに努めている。まだ47歳。桐蔭学園高、慶応大時代の仲間は、今が社会の中堅として油が乗り切ったころ。高橋さんも野球以外の世界に目を向け、耳を傾けることが「とても新鮮」という。9月には、野球経験者を多数採用し、営業の代行という分野で業績を伸ばしているギグセールス社の福山敦士代表取締役と、なぜ野球部出身者がビジネスに向いているのかについて語り合った。
目標を設定し約束を守る
33歳の福山さんが現在行っているビジネスは、「成長産業に軸足を置くスタートアップの営業を支援する仕事」。理系の人材が集まるベンチャー企業は、優秀な製品を生み出しても、営業のノウハウを持っていないため売り込みに苦心することが多い。そこで、代わりに営業を受け持つビジネスが成立するという。ではなぜ、野球経験者がこの仕事に向いているのか。福山さんは「選手として目標を達成する力と、チームの一員として約束を守る力の2つが優れているから」と説明する。
この説明に高橋さんも、社会の中堅になった学生時代の仲間の例を引き合いに出し「彼らは失敗や理不尽なことも、受け止められるようになっている。みんなでやること、自分でやることの区別ができている。若い時から、野球を通じ自然に身についたものなのかな」と共感を示した。
結果問われ練習熱心に
福山さん自身は、小学生の時から野球を始め、慶応高時代には春の選抜大会出場の経験もある。ただ、その後はレギュラーの座を獲得できず、慶応大では体育会準硬式野球部の学生コーチを務めた。卒業後は大手のIT企業に就職し27歳で独立。M&A(企業の合併・買収)を経てギグセールス社に参画した。経営の著書も多数ある。そういう経歴だから、高校、大学、プロとスター選手だった高橋さんは憧れの存在。すべてがパーフェクトに見えるようだ。
しかし、高橋さんは意外な反応を見せる。「一生懸命練習したのはプロになってから。高校、大学時代はみんなと一緒にやりたかった。プロに入り野球が仕事になると、結果に対する危機感が生まれてきた。懸命に練習するようになったので、学生時代の仲間は信じられないと驚いていた」。さらに、プロ野球出身者がセカンドキャリアで成功するための必要な要素は、「当たり前のことが、きちんとできるか。例えばあいさつとか。プロ野球選手の前に、社会人なんだから」という。
当面は野球部中心
ギグセールス社のメンバー170人のうち、約3割が野球部出身者。中には社会人野球で日本代表に選ばれたり、プロの独立リーグで活躍した選手もいる。選手が第二の人生へ踏み出すための教育・育成にも配慮しているという。それならば、ほかの競技の出身者にも門戸を広げてよさそうだが、福山さんは「まずは自分の野球部時代の友人に報いたい。野球という共通項を持った大好きな仲間たちであれば、彼らを成功に導く自信はある」と、当面は野球部中心で採用を進めていく方針だ。
アイデアと行動力で突き進む後輩へ、高橋さんは感心しつつ応援も惜しまないという。ただ、プライドが高いプロ集団を監督として率いてきた経験から「プロ野球は不平等の世界で、結果がすべてだった。それで給料も決まった。結果を冷静に受け止める力も必要だ」と、リーダーとしての心構えを披歴した。最高峰を経験した者が語れる言葉をエールとして送った。