NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。4月2日に放送された第13回「家康、都へゆく」では、主人公・徳川家康(松本潤)の上洛の様子が描かれた。
前回まで続いた家康の領地・三河一帯の平定戦は、今川家の滅亡で一段落。今回は将軍・足利義昭(古田新太)や明智光秀(酒向芳)、茶屋四郎次郎(中村勘九郎)、浅井長政(大貫勇輔)といった人物が新たに登場。上洛により家康の視線も三河から外の世界に向かい、物語は次のステージを迎えた印象だ。
ではそれは、家康にとってどんな意味を持つのか。これまで家康は、主君・今川義元(野村萬斎)の予想外の死に遭遇した第1回の桶狭間の合戦以来、「いかに生き延びるか」を目的に戦い続けてきた。
織田軍に包囲された大高城を脱出して三河に戻ると、今川を裏切って織田方に付き、今川領に取り残された妻子を救出、勃発した一揆を鎮圧し、今川氏真(溝端淳平)との決戦に臨み…。全ては、徳川と三河が生き残るための戦いだった。
それが一段落した今回、上洛した家康は織田信長(岡田准一)から「この乱れた世を、本来のあり姿(あるべき姿)に戻す。将軍・足利義昭公は立派なお方じゃ。俺は将軍様の手足となって、それをなす。それこそが、俺の天命だと信ずる」と決意を聞かされ、「力を貸せ」と協力を求められる。
さらに将軍との謁見(えっけん)後、上洛を拒んだ朝倉義景との戦に出陣を命じた信長は、家康にこう告げる。「俺と将軍様に従わぬ者は、全て滅ぼす。天下を一統する」
ここで、家康にとって戦いの目的が、今までの「生き残るため」から「天下を統一するため」に変わる。それは同時に、初めて家康が「天下統一」を現実のものとして認識した瞬間ではなかったか。
だが、その要となるべき将軍・足利義昭はどうだろうか。謁見中に居眠りをし、家康の名を間違え、「官位を金で買った田舎者」とばかにしたかと思えば、妻子のために苦労して手に入れた金平糖を強引に奪うなど、信長の言う「立派なお方」とは程遠い。その姿に幻滅したことは言うまでもないだろう。
それは、裏を返せば「将軍」という存在を家康が初めて意識した一つの転機にもなったはずだ。義昭はいずれ、家康にとっての反面教師的な存在になるのかもしれない。
これまで、生き抜くためだけに必死に戦ってきた家康が、初めて意識した「天下統一」と「将軍」。また一歩、「天下人・家康」に近づいたのがこの回だったといえるのではないだろうか。
新たなステージに立った家康は、今後いかに歩みを進めていくのか。ますます家康に「どうする?」と困難な決断を迫っていくであろうこの先の物語が楽しみだ。
(井上健一)