業績向上や株価向上は、企業が第一に目指すところ。しかし、その実現に向けて企業を支えるのは従業員一人一人。従業員たちが健康であってこそ、企業のために力を存分に発することができる。「従業員等の健康管理を経営的な視点でとらえ戦略的に実践する」のが「健康経営」という考え方だ。「健康経営」は、NPO法人 健康経営研究会の登録商標で、同研究会が2006年から提唱してきた。国としても「健康経営」を推進するための施策を講じている。経済産業省でも、健康経営に係る各種顕彰制度として、2014年度から「健康経営銘柄」の選定を行うほか、2016年には「健康経営優良法人認定制度」を創設。健康経営に取り組む法人の優れた取り組みを広く発信している。
そのような中、大同生命保険(大阪市)は、全国の中小企業経営者を対象に2015年10月から毎月実施しているアンケート調査「大同生命サーベイ」の2023年8月度調査の主要テーマに「中小企業の健康経営」をすえ、中小企業の健康経営への取り組みの実態について調査した。
調査は、全国の7008社の企業経営者を対象とし、8月1日~31日に訪問またはZoom面談により行った。
まず健康経営について、「意味や内容を知っている」と答えた経営者は全体の36%。これは、昨年7月時の調査時(32%)と比べると4ポイントの増加だが、初めて健康経営について経営者に質問した2017年3月調査時(10%)と比べると26ポイント増加しており、6年間で認知度が確実に高まっていることがうかがえた。また、経営者が自身の健康を意識している企業ほど、健康経営の認知度が高かった。
今回調査対象となった中小企業経営者については、8割超(83%)が自分自身の健康について「意識している」(「強く意識している」21%・「ある程度意識している」62%)と回答。経営者の年齢が⾼いほどその傾向が見られた。経営者自身が健康維持・増進のために実践していることは、「健康診断の受診」が75%と最多で、「規則正しい生活」(41%)、「十分な睡眠」(40%)と続いた。
「経営者として把握したい従業員の状況」(複数回答)については、「仕事に対するモチベーション」(78%)、「就労継続意向」(77%)と並び、「健康問題」(74%)を挙げた経営者が7~8割いた。
経営者が課題と考える「従業員の健康上の問題」(複数回答)は、「生活習慣病」が43%と最多で、「運動不足」(29%)、「腰痛・肩こり」(24%)と続いた。業種別でみると、「建設業」では「生活習慣病」(49%)、「喫煙習慣」(23%)、「過度な飲酒」(14%)が他業種より多く、「製造業」では「従業員間のコミュニケーション不足」(18%)が他業種より高くなっていた。
健康経営の取り組み内容としては、「従業員の健康診断の実施」(63%)が最も多く、次いで「長時間労働の抑制」(50%)だった。以下、「休暇取得の促進」(42%)、「感染症対策」(32%)、「人間ドックやがん検診などの費用補助」(14%)、「禁煙・受動喫煙防止対策の実施」(10%)だった。
「特に取り組みなし」と回答した経営者(16%)以外に「取り組みの効果」(複数回答)を尋ねたところ、「従業員の満足度向上」(36%)と「コミュニケーションの改善」(34%)が高い割合を占めた。健康経営に取り組むことで、経営者と従業員の対話も増えている様子がうかがえる。
一方、「健康経営に取り組むうえでの課題」(複数回答)については、「企業として従業員個人の健康にどの程度関与すべきかの判断が難しい」(33%)が最も多かった。以下、「時間・人手がない」(23%)、「自社にノウハウがない」(19%)だった。
産業医科大学・産業生態科学研究所の森晃爾教授は、多くの中小企業経営者が「健康経営」に着目する背景として、昨今の人材不足を指摘。また、経営者が考える「健康経営を進める上での課題」のトップが「企業として従業員個人の健康にどの程度関与してよいかの判断が難しい」だったことに対し、医療職がいない中小企業ならではの課題ととらええている。「経営者の皆さんには、必要な行動をとっていない従業員に健康の大切さを伝え、行動を促していただきたい」としている。