まめ学

大同生命が「中小企業のがん対策」調査、9割は従業員の半数以上ががん検診受診 専門家は「肝炎ウイルス検査受診」「子宮頸がんワクチン接種」も呼び掛け

 日本では「一生のうち2人に1人ががんになる」といわれている。また、がん患者の3人に1人が20~64歳の働く世代というデータもある(「平成31年(令和元年)全国がん登録罹患(りかん)数・率報告」:国立がん研究センターがん対策研究所編集、厚生労働省健康・生活衛生局がん・疾病対策課発行)。がん検診による予防やがんに罹患した従業員への対処は、今後ますます重要になると考えられている。

■約7400社の中小企業経営者に「がん対策」を聞いた

 そのような中、大同生命保険(大阪市)は、全国の中小企業経営者を対象に2015年10月から毎月実施しているアンケート調査「大同生命サーベイ」で、2023年11月度調査の主要テーマに「中小企業のがん対策」を設定。経営者や従業員の「がん対策への関心」や「がん検診受診率」などを調査した。全国の7376社の中小企業経営者を対象とし、11月1日~28日に訪問またはZoom面談で調査を行った。

 中小企業のがん対策についての調査は、2022年10月に続き、今回で4回目。企業等の従業員や家族のがん検診受診率60%や就労環境の改善を目指す厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」と共同で実施した。

■8割弱の経営者ががん検診に関心、約9割は従業員の半数以上ががん検診を受診

 まず、経営者自身・従業員のがん対策(がん検診)への関心については、「大いに関心がある」(13%)と「関心がある」(62%)を合わせ、75%が「関心がある」と答えた。直近2年間で「従業員のがん検診を実施している」企業は46%で、前回調査より5ポイント増加した。また、27%が「会社でがん検診を実施していないが、個人での受診を推奨している」と答えた。

 「直近2年間で従業員のがん検診を実施している」と答えた経営者に「がん検診受診対象者の受診状況」を尋ねたところ、「全員受診」が60%、「概ね受診」(50%以上100%未満)が26%。合わせて従業員の半数以上ががん検診を受診している企業は約9割(86%)という結果だった。

 

 

■経営者も7割ががん検診受診、従業員の受診率を上げる取り組みも

 経営者自身が直近2年間で「がん検診を受診した」と回答した企業は72%だった。受診したがん検診の種類の上位3位は、男性が「大腸がん(検便)」(59%)、「胃がん(エックス線)」(50%)、「肺がん(エックス線)」(48%)。女性は「乳がん(マンモグラフィー)」(57%)、「子宮頸がん」(52%)、「大腸がん(検便)」(47%)だった。従業員が受診したがん検診の種類は、「胃がん検診」が36%と最も多かった。

 

 「直近2年間でがん検診を実施した」と回答した経営者に従業員のがん検診受診率を向上させるための取り組みを聞くと、「受診費用の補助」(68%)が最も多く、次いで「勤務時間内の受診許可」(56%)だった。全体に従業員のがん検診受診率を向上させる上での課題を聞くと、「がん検診は個人の問題のため、企業として関与する範囲の判断が難しい」(37%)が最も多かった(ともに複数回答)。

 

■6割ががんと仕事の両立支援策を導入

 「これまでにがんに罹患した従業員がいる(いた)」企業は29%で、そのうち、がんに罹患した従業員が「退職した」と回答した企業は33%だった。

 

 「両立支援を導入している会社」は59%で、主な両立支援策(複数回答)としては、「傷病休業・病気休暇制度」(37%)、「勤務時間の変更、短縮時間勤務制度」(23%)、「勤務日・勤務日数の変更」(19%)などだった。両立支援を導入・推進する上での課題は、「がん治療中の従業員の業務をカバーする人材の不足」が32%と最も多かった。

 

 

■専門家「肝炎ウイルス検査受診、子宮頸がんワクチン接種を」

 今回の調査では、「肝炎ウイルス検査の受診案内」の実施率(10%)、「子宮頸がんワクチンの案内」の実施率(6%)がともに低く、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種について「個人の問題なので周知は考えていない」と答えた人が最多(43%)だった。

 

 ウイルス感染によって発生するがんの代表が「肝臓がん」で、原因の7割近くがB型・C型肝炎のウイルスとされる。しかし既に肝炎に感染している人でも「抗ウイルス剤」で体内からウイルスを排除することで肝臓がんの発症リスクを大きく低下させることができる。血液検査による肝炎検査は、保健所等で原則無料で受診できる。また、子宮頸がんワクチンは、子宮頸がんの9割を予防するワクチンで、小学6年~高校1年の女子を対象とした公費接種については無料。子宮頸がんは若い女性に多く、日本では毎年約1万1000人がかかり、毎年約2900人が亡くなっている。

 

 

 がん対策推進企業アクション議長の中川恵⼀氏(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)は、中小企業経営者の75%が「従業員のがん対策に関心がある」と回答し、従業員の半数以上ががん検診を受診している企業が86%に達していることを評価。その上で、「肝炎ウイルス検査は肝がんの予防に、ワクチンの接種は子宮頸がんの予防に有効。今後、経営者だけでなく従業員に対しても、早期の勧奨が望まれる。経営者と社員、そして会社を守るために、がん対策は経営課題といえる」とコメントしている。