2030年3月以降に上場維持基準の時価総額が40億円から100億円に引き上げられる東証グロース市場の基準見直しを受け、同市場に上場する新興企業らの動きが活発になっている。上場企業の一つ、創薬ベンチャーNANO MRNA(ナノエムアールエヌエイ、東京都港区)は10月8日、東京都内で記者会見し、SBI証券(東京都港区)、SBI新⽣企業投資(東京都港区)と提携して新たに投資事業に参入すると発表、創薬事業との2本立てで新基準“100億円の壁”を突破する経営戦略を明らかにした。
NANOの秋永士朗社長は「本年4月に東証が提示した上場維持基準の見直しに危機感を覚えた。社内で真剣に議論を続けた結果、弊社の株式を使ってヘルスケア企業の買収を行い、企業価値を成長させる構想に至った」と述べた。
東京証券取引所(東証)は今年4月の有識者会議でグロース市場の上場維持基準見直し案を示し、新基準の概要を9月26日発表した。新基準は「上場5年経過後、時価総額100億円以上」。現行の「上場10年経過後、時価総額40億円以上」の期間、時価総額ともにハードルを上げた。1年間の改善期間内に新基準に適合しなかったときは、監理・整理銘柄指定期間を経て上場廃止となる。
グロース市場を「⾼い成⻑を目指す企業が集う市場」にしたい東証は、低成長や低評価の上場企業に現行ビジネスモデルの成⻑戦略・目標のブラッシュアップ(再考、改善)を呼び掛けるなどして、上場企業の早期成長や企業間の合併・買収(M&A)を促している。
今回のNANOの動きはこうした東証の方針を踏まえた対応で、NANOの土屋千映子コーポレートコミュニケーション部長は「過去に弊社の時価総額が100億円を下回ったこともあり、社内には危機感があった」と話す。
NANOが記者会見で明らかにした創薬、投資の2本立ての経営戦略のゴールは「ヘルスケア分野におけるコングロマリット(複合企業体)」の構築だ。
今後予定している具体的な手順は、12月11日に臨時株主総会を開いて総会後速やかに、投資子会社「Nano Bridge Investment」やSBI新⽣企業投資と共同運営する100億円規模のファンドを立ち上げ、投資事業を開始。併せて2026年4月1日付で「Nano Holdings」に商号変更してホールディング体制に移行し、コングロマリット化を進めるという。

記者会見では投資事業の「4年後(2029年)の数値目標」も発表。ファンド運用資産約300億円▽ファンドの投資先企業約10社(未公開企業中心)▽IPO(新規上場)、M&A(企業の合併・買収)の事例1~2社創出▽NANOの時価総額500億~1000億円―の4つの数値を掲げた。
SBI新⽣企業投資の植坂謙治社長らSBI側の関係者と一緒に記者会見したNANOの秋永社長は、SBI証券との議論や多くの創薬企業らと面談を重ねる中で「SBIグループと提携して買収した企業のIPOなどで利益を出し当社の企業価値を高める、当社の革新的ビジネスモデルの実行は可能であると確信した」と説明。
その上で「現在多くの投資チャンスが存在しており、この千載一遇のチャンスをものにして株主に還元したい」と投資事業への参入に自信を示した。