『大名倒産』(6月23日公開)
江戸時代後期。越後・丹生山(にぶやま)藩の鮭役人・間垣作兵衛(小日向文世)となつ(宮崎あおい)の息子として平穏に暮らしていた小四郎(神木隆之介)は、ある日突然、自分が徳川家康の血を引く丹生山藩主の跡継ぎだと知らされる。
庶民から殿様への大出世かと思いきや、実の父である松平一狐斎(佐藤浩市)は、小四郎に国を任せて隠居。その上、丹生山藩が25万両(現在の価格で約100億円)もの借金を抱えていることが判明する。
頭を抱える小四郎に、一狐斎は「大名倒産」を命じる。それは借金の返済日に藩の倒産を宣言して踏み倒すという案だったが、実は一狐斎は小四郎に全ての責任を押しつけて切腹させようとたくらんでいた。
浅田次郎の同名時代小説を、丑尾健太郎と稲葉一広が共同で脚色し、時代劇は初となる前田哲監督が映画化。神木の時代劇初主演作となった。小四郎の幼なじみのさよを杉咲花、小四郎の兄の新次郎を松山ケンイチが演じるほか、多彩なキャストが登場する。
これは、最近時折作られる“ニュー時代劇”の一つというか、時代劇の形を借りた一種のファンタジー。全編がデフォルメによる遊び心と楽しさに満ち、中抜き、公文書改ざん、サブスクリプション、シェアハウス、SDGsなど、今の問題が江戸時代にも通じることを示し、せりふも所々で現代風になっている。
家臣たちが次第に小四郎に感化されていくところは、政治の素人である大統領の影武者が政治を変える『デーヴ』(93)をほうふつとさせ、みんなで主役の神木を盛り立てようという姿勢が、劇中の小四郎と周囲の人々の姿に重なって見えるところがある。
そして、小四郎が養父はもちろん、鮭役人という彼の仕事のことも本当に好きなんだと分かる冒頭のシーンから、やっぱりこれも、他の前田哲作品同様、家族(共同体)の話であり、群像劇なのだと感じさせる。前田哲監督快調!
大林宣彦監督の『時をかける少女』(83)を思い出させるような、エンディングのサービスシーンも楽しいのでお見逃しなく。