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「光る君へ」第五回「告白」物語に合わせ、新たな一面を披露する登場人物の魅力【大河ドラマコラム】

「道長に、このような熱き心があったとは知らなんだ。これなら、わが一族の行く末は安泰じゃ。今日は良い日じゃ」

「光る君へ」(C)NHK

 2月4日に放送されたNHKの大河ドラマ「光る君へ」第五回「告白」に登場したせりふだ。主人公・まひろ(吉高由里子)から、まひろの母を殺したのが自分の兄・道兼(玉置玲央)であることを聞き、衝撃を受けた藤原道長(柄本佑)は、館に取って返し、「六年前、人をあやめましたか」と道兼を問い詰める。それに対して道兼が「虫けらの一人や二人殺したとて、どうということもないわ」と言い放つと、普段は穏やかな道長が「虫けらはお前だ!」と激高し、殴りかかる。

 息子たちのそのやり取りを見ていた父・兼家(段田安則)が、満足そうに笑いながら語ったのが、冒頭の言葉だ。

 「告白」と題したこの回のクライマックスはもちろん、まひろが道長に母の死の真相を打ち明ける場面だ。この場面の吉高と柄本の気持ちの入った演技に、筆者も心動かされたことは言うまでもない。だが、そのような大きな出来事に遭遇した登場人物の心がどう動き、どのような行動をとるのか。それを描くのが、ドラマの面白さだ。その点、まひろの母の死の真相を知り、これまでにない激高ぶりを見せた道長の姿には、兼家同様、筆者も驚くと同時に、物語が新たな局面を迎えたことを感じた。

 このように登場人物の多面性を描くことこそ、1年にわたって放送される大河ドラマの醍醐味(だいごみ)でもある。それが登場人物にさらなる深みをもたらし、ひいては物語の魅力を増すことにつながるからだ。その点、まひろや道長だけでなく、実力ある俳優陣が居並ぶ本作には、他にも楽しみな登場人物が数多くそろっている。

 例えば、目下のところ印象最悪な道兼。しかし、「NHK大河ドラマ・ガイド 光る君へ 前編」(NHK出版)掲載のインタビューを読むと、演じる玉置が「台本を読み進めるうちに、道兼はただの嫌な奴じゃないことが分かってきました」と語っている。今後、その印象が変わっていくと考えられるが、それはどのような方向になるのだろうか。もしかしたら、最終的には視聴者の共感を呼ぶキャラに一変するかもしれない。

「光る君へ」(C)NHK

 また、黒木華演じる源倫子。今のところ育ちの良い上品なお姫様といった印象で、身分差のあるまひろに対しても、和歌の勉強会に集まる他の姫たちにはない優しさを見せている。だが、そこに「自分の方が立場は絶対的に上」というおごりはないのだろうか。さまざまな作品での黒木の活躍を見ていると、単なる“上品なお姫様”で終わるとは思えない。愛と憎しみは表裏一体でもある。まひろに対する倫子の優しさが、ふとしたきっかけで憎しみや怒りに変わることはないのだろうか。

 そして、屈託のないまひろの弟・惟規(高杉真宙)。この回、「誰かの引き立てなくば、まっとうな官職を得ることもできぬ」と、父・為時(岸谷五朗)からひどい言われようだったが、いずれは外で働き始めるに違いない。その時、伸び伸びとしたキャラは変わらぬままでいられるのだろうか。

 他にも、互いへのライバル心がちらりとのぞく“平安F4”こと藤原公任(町田啓太)、藤原斉信(金田哲)、藤原行成(渡辺大知)の面々。一見、真っすぐな人柄に見える道長の長兄・道隆(井浦新)。そして、謎めいた散楽の一員、直秀(毎熊克哉)など、気になる登場人物はまだまだいる。物語は幕を開けたばかり。その行方と共に彼らがどんな一面を披露していくのか、期待を込めて見守っていきたい。

(井上健一)

「光る君へ」(C)NHK