-それによって、道兼は大きく変わりました。
つまり道兼は、道長のおかげで少しだけ真人間になれたわけです。それと同時に、僕自身も共演者としての佑くんに対する信頼がさらに高まったと思っていて。だから今振り返ると、きちんと道長を嫌いでよかったし、きちんと好きになれてよかったなと。
-一方、日常的に接してきた道長と違い、道兼は因縁の相手であるまひろと直接の接点はほとんどありませんでした。その中で、まひろや演じる吉高さんとの距離感をどう意識していましたか。
僕は、プライベートでの関係性をお芝居に乗せた方がいいと考えるタイプです。それによって生まれる役同士の距離感や関係性があると思うので。吉高さんとも普段から親しくしているので、今回もそれが存分に発揮されたような気がします。
-第八回で道兼がまひろの家を訪ねた場面は、2人が顔を合わせる貴重な機会でした。
ニアミスは何度かありましたが、直接顔を合わせる機会は限られていたので、あの場面では、2人の関係性に関する情報をできる限り詰め込み、画から感じ取れる以上のものを受け取っていただけるように、と意識していました。まひろにとって道兼は憎い母のあだ。だから、それに気付かないまま「不愛想だな」などと言っている道兼の愚かさが、2人の距離感に加わった方が効果的だろうと。そこには、普段の僕と吉高さんの関係性があるからこそ、生まれたものもあるのではないかと思っています。
-まひろが道兼の前で琵琶を弾くシーンは緊張感が漲っていました。
あそこは、ただ琵琶を弾いているだけのように見えて、まひろにとっては道兼との戦いです。視聴者からは「琵琶で道兼を殴ればいいのに」という声もあったようですが、現場の吉高さんには、そう思わせるくらいの殺気に近い緊張感が漂っていました。普段は天真らんまんな吉高さんが、ああいうお芝居を見せてくれたことで、改めて「すごい役者だな」と実感しました。
-いわゆる“ヒール”と呼ばれる悪役、あだ役としての道兼を演じたお気持ちは?
僕は普段からヒール役を演じることが多いので、今回も(脚本家の)大石(静)先生から「ぴったりの役」とお聞きし、やる気満々でいたんです。でも、出来上がった台本を読んでみたら、想像以上で(苦笑)。「これでいいのかな?」と不安になることもありましたが、スタッフやキャスト、視聴者の皆さんに励まされ、最後まで演じ切ることができました。そういう意味では、これまでいろんなヒールを演じてきましたが、まだまだいろんなやり方があるんだなと今回、改めて気付かされました。
-役者としてやりがいを感じた部分は?
第一回からドラマ的な見せ場も多かったので、それぞれ丁寧に演じさせていただきました。でも、実はすごく楽しかったのが、藤原一族が一堂に会する場面だったんです。特別ドラマチックな場面でもないのに、現場ではみんなが一斉に「自分はこうする」「それなら私はこうする」といった感じで、演技合戦を繰り広げていて。それがあの一族を端的に表していた気もしますし、同時に俳優としても、そういうやり取りの中から家族のシーンが出来上がっていくのが楽しくて。いろんな発見も多く、皆さんのことをさらに深く知ることができ、とても豊かな経験をさせていただきました。
(取材・文/井上健一)