-弁護士事務所のシーンでは、小林聡美さんが演じるパラリーガル兼経理・乾利江とのシーンも多いですが、小林さんとの撮影はいかがでしたか。
聡美さんはもともと憧れの存在で、いつかご一緒できたら幸せだなと思っていました。ご出演作を見たりエッセイを読んだりしていました。事務所のシーンの撮影で、部屋の片隅にある畳に2人並んで腰掛けて、好きなおにぎりの具の話をしたときに、「これって『かもめ食堂』だ!」と泣きそうになりました(笑)。私は聡美さんのピンと背すじを伸ばした姿勢が好きで。いつも背すじが真っすぐで、どんなにリラックスされていても、あの姿勢でお芝居をされたり、人に丁寧に接されたりする姿をそばで拝見できてすごく幸せでした。聡美さんがクッキーをくださったことがあって、それは写真にも撮りました(笑)。本当に幸せです。
-父・辰夫役の田辺誠一さん、母・香澄役の和久井映見さんとのエピソードも教えてください。
クランクインから少しして、お父さんとお母さんに初めてお会いした瞬間に、「竜美は、これでよかったんだ」と思いました。竜美が持っている要素を全て両親がバランスよく持っていて、「この両親から生まれた子だ」というのがすごくストンと腑(ふ)に落ちて。お会いした瞬間から家族になれた気がしました。
-これまでの撮影で特に印象に残っている出来事は?
1話のクライマックスの法廷のシーンで、私が真っ赤なはかまを着て弁護人の席に座るという場面で、隣にいらした松坂慶子さんが私を見て吹き出したんです(笑)。法廷にはかまを着た人がいるということに耐えられなかったようで、ケラケラと笑っていらしたのが忘れられないです。「いいわね」とおっしゃっていて。毎話ゲストの方が来てくださいますが、本当にすてきな方ばかりの現場でした。どの方ともすごく印象的な思い出がたくさんあります。
-ところで、竜美は勝負の世界で生きてきたキャラクターですが、上白石さんは勝負に対するこだわりはありますか。
この世界も勝負といえば勝負なのかもしれないですが、勝ち負けがつくわけではなくて、どちらかというと自分との戦いだと思います。自分がよしと思うか、だめだったと思うかの世界なので、相手に対して闘志を燃やすことはあまりないです。ただ今回、竜美を演じて私もすごく負けず嫌いなんだなとか、実は勝ちたいと思っているんだなという気持ちに気付きました。
-それはどういったところで感じたのですか。
棋士の方のことを知りたいと思って将棋の本をたくさん読んだのですが、その中に、「対局のときは相手の息の根を止めるくらいの気合でいく」ということが書いてあったんです。頭脳戦ではあるけれど、それくらいの気持ちでいると。実際に、1回の負けが命取りになる世界ですし、それほど戦いに懸けている世界だということを知ってから、私も法廷のシーンは“戦”だと思って演じるようにしていました。ここから長せりふが続くというときに、心の中でボッと着火する瞬間があるんですよ。それにたぎる自分がいたんです。そこが着火できるとうまくいくことがあって、今まで自覚はしてこなかったですが、この負けん気を燃やすということをこれからは意識的にやっていこうかなと思いました。
-2025年がスタートしました。そこで、2024年の振り返りと、今年の目標をお願いします。
2024年は、大学を卒業して、やっと社会人としての覚悟を決めた年でした。今までとは景色が違いましたし、今までより多くのことを感じたように思います。去年、初めて日記が続いたんです。読み返してみたら、2日に1回くらい「悔しい」って書いていて。いろいろな人の才能に嫉妬したり、自分の未熟さに落ち込んだり、悔しい悔しいって思いながら過ごしていました。ですが、それは丁寧に悔しがれたということでもあるので、すごくいいことだと思います。今年も小さなことに喜んだり悔しがったりして、傷もたくさん増やし、その分、共感力や優しさを高めながら生きていけたらいいなと思います。
-悔しさが原動力につながっているんですね。今年、挑戦したいことはありますか。
人間ドックです。今まで行ったことがないんですが、何かあるかもと心配で(笑)。長生きしたいです。
-最後に読者へのメッセージをお願いします。
将棋や法律と言われると難しいドラマなのかなと身構えてしまう方もいらっしゃると思いますが、その身構えた格好で見始めたら、数分でスコッとなると思います(笑)。それくらい間口が広くて、歩み寄りのある作品です。すごく大事なものを手渡してくれるドラマになっていると思うので、ぜひ柔らかい気持ちになって楽しんでいただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/嶋田真己)