近年、出産インフラの地域格差が社会問題となりつつあります。特に、一般に無痛分娩と呼ばれる、麻酔によって分娩時の痛みを緩和する施術は、大都市では一般的な分娩方法となりつつありますが、一部地域ではいまだ実績がない状況です。
日本産婦人科医会のまとめた2025年のデータによれば、無痛分娩比率は、東京都が35・8%と突出して高く、次いで熊本県、神奈川県、千葉県が25%を超えました。一方で、岩手県と高知県では実績がなく、そのほかにも11の県で5%を下回っています。特に無痛分娩比率が20%を超え、すでに実績を積み上げている都県においては、今後さらに伸びることが予見される状況です。これに対し5%を下回るような県の多くは、ほとんど足踏み状態です。
24年に東京都が実施したアンケート調査によれば、東京都で出産した妊婦のうち、およそ64%が無痛分娩を希望していたことなどからもわかる通り、希望者は少なくありません。しかしながら、すべての出産施設で無痛分娩ができるわけではなく、麻酔医の常駐など、医療体制が整うような経営体力が備わった分娩施設は、一部の大都市に集中しています。また、出生数そのものが減少する状況下、無痛分娩が実施不可能な施設では分娩数が急減し、実施可能な施設で微増する傾向にあります。無痛分娩にも対応できる体制を確保している病院・診療所が選ばれているのです。
無痛分娩の実施を担保していくためには、全国的に不足している産科麻酔に知見のある麻酔医を増やしていくことが不可欠です。国・都道府県が、各大学の医学部に、産科麻酔の講座を立ち上げるよう促していくことが必要です。ただ、そこから専門医が育つまでには一定の時間を要することから、産科医が硬膜外麻酔などの専門的知見を得られえるような研修プログラムの提供体制を整備していくことも不可欠となるでしょう。
分娩施設経営の視点からは、熊本県の事例が参考になります。年間出生数が1万人程度と決して多くはない熊本県は、無痛分娩比率が全国2位と高く、全国的に見て先進地域となっています。熊本県では分娩施設の集約などにより、施設当たり、あるいは医師1人当たりの出生数が、神奈川県や千葉県と同等の高い水準にあり、無痛分娩の導入余力を生んでいます。
少子化が進むなか、地方においても無痛分娩のような新しい施術の導入を進めていくには、分娩施設の経営健全化に向けた施設の集約が不可欠といえましょう。一方で、「身近な地域で出産できる環境の維持」も重要であり、適正配置の視点も欠かせません。民間経営の分娩施設の集約とともに、その適正配置という二律背反ともいえる取り組みが必要です。
地方自治体は、少子化対策として、現金給付や種々の無償化政策の多寡を競うのではなく、「身近な地域で安心して出産できる環境の構築」に資する出産インフラの整備にこそ、注力していくことが必要です。分娩施設自らの経営強靭化と並行して、自治体の介在による施設の地理的な適正配置や経営支援が望まれます。
(日本総合研究所 調査部 主席研究員 藤波匠)
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.30からの転載】







