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日本型のリジェネラティブ農業の 普及に向けて 連載「グリーン&ブルー」前田佳栄 日本総合研究所リサーチ・コンサルティング

 近年、温室効果ガス(GHG)排出量の削減やサステナビリティー対応、原料調達リスクへの備えを背景に、食品企業などを中心に、リジェネラティブ農業への関心が高まっている。リジェネラティブ農業とは、単に環境への悪影響を抑えるだけでなく、土壌や生態系をより良い状態に回復させることを目指す農業の考え方である。海外では、ネスレなどの大手食品企業が積極的に取り組んでいる。同社は、2025年にはコーヒー生豆の53%をリジェネラティブ農業に取り組む生産者から調達し、2018年比で、コーヒー生豆のGHG排出量の18・3%削減を達成した。また、15カ国で1600人超の農学者・スタッフが研修や技術支援などのサポートも実施している。

 ただし、海外で広がる考え方を日本にそのまま適用することは難しい。リジェネラティブ農業で重視されてきた技術の多くは、乾燥地域や大規模な単一作物栽培による土壌劣化への対応を背景に発展してきた。例えば、畑を植物で覆うカバークロップ、土をできるだけ耕さない不耕起、複数の作物を順番に栽培する輪作、家畜を計画的に移動させながら草地を管理する放牧管理など、畑作や草地を前提とした技術体系が中心となっている。

 一方、日本を含むアジア・モンスーン地域では、水田での稲作が農業の中心となっている。水田では、土壌中の酸素が不足しやすく、メタン生成菌の働きによって、GHGの一つであるメタンガスが発生しやすい。国内では、田んぼの水を一時的に抜いて土を乾かす期間を通常より長くする中干し延長など、メタンガスの発生を抑える技術が導入されつつある。また、もみ殻などを炭にして土に混ぜるバイオ炭などの技術開発も進んでいる。

 このように、日本型のリジェネラティブ農業を考える際には、欧米の技術をそのまま導入するのではなく、日本の気候、土地利用、農業経営の規模に合わせて再整理する必要がある。特に、日本の稲作では、海外のように数百ヘクタールを超えるメガファームは少なく、大規模経営体でも数十ヘクタール規模が一般的である。野菜や果物では、経営規模はさらに小さくなる。このため、個々の農業者がそれぞれ独自に技術を導入し、取り組みの効果を定量的に評価・モニタリングし続けることは、実務上の負担が大きい。

 したがって日本では、取り組みを個々の農業者だけに委ねるのではなく、産地単位や食品企業の調達先単位で、技術導入や効果の評価を進めることが現実的である。例えば、地域の農業法人、JA、食品メーカー、自治体などが連携し、導入する技術の選定やGHG削減、土壌改善の効果測定を推進していくことが重要となる。これは環境対策であると同時に、将来にわたって安定的に原料を確保するための取り組みとなる。日本の農業の特徴に合わせた実践方法と評価の仕組みを整えることが、普及に向けた第一歩となる。


前田佳栄(まえだ・よしえ) 富山県の兼業農家で育ち、現場感覚を踏まえた新規ビジネスアイデアの検討、コンサルティング、政策提言などを行う。2017年東京大大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修了(16年度同科修士課程総代)。現在、日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門食農イノベーショングループ所属。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.30からの転載】