3月まで、NHKで「チ。ー地球の運動についてー」というアニメが放映されています。天動説と地動説に関わる、数世代に及ぶ人々の人生をかけたせめぎ合いをフィクションとして描いた大ヒットコミックを原作とするアニメで、原作は2022年に第26回手塚治虫文化賞のマンガ大賞に輝いています。
アニメの方も放送開始当初より話題となっており、動画共有サイトには、さまざまな考察動画がアップされています。アニメから天文に興味を持つ視聴者も多いようで、アニメとは関係なく、専門家が天動説や地動説について解説した動画もビュー(再生数)を稼いでいるもようです。
コミックやアニメは、中世ヨーロッパとおぼしき架空の地域が舞台となっていますが、天動説と地動説のせめぎ合いは、実は紀元前から続く論争です。紀元前から地動説を唱える学者はいたのですが、天体望遠鏡が開発されるとともに、物体の運動に関する理論が確立する17世紀まで、天動説が通説となっていました。とても動いているとは思えない大地から肉眼で星々を観測するしかなかった状況では無理もありません。
太陽をはじめとする全ての星が地球を中心に回るという天動説の弱点は、惑星の動きにありました。惑星はまさに字のごとく、星空で逆行と呼ばれる異質な動きをします。これは、太陽の周りを回る惑星の相対的な位置関係によるものです。他の車を追い抜く時に、追い抜かれた車が後ろに下がっていくように見えるのと同じことです。天動説では、こうした惑星の動きを定式化するため、かなり無理のある複雑な惑星軌道を想定しなければなりませんでした。
結果的に天体望遠鏡の登場で観測技術が向上したことと、物理学の発展によって、地球も他の惑星と同じように太陽の周りを回っているという、よりシンプルな地動説が天動説に取って代わったわけです。
地動説への転換を促した惑星ですが、この原稿の執筆時の夕暮れ、夜空の比較的狭いエリアに、全ての惑星、水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星が並んで輝いています。街明かりで夜空が明るい東京でも、ひときわ強く輝く金星、火星、木星くらいは目視で見つけることができると思います。宵の明星と呼ばれる金星はもちろんのこと、赤く輝く火星も見つけやすいはずです。それらの惑星が西の空に沈んだ太陽を追いかけるように黄道(こうどう)(太陽の見かけ上の軌道)上に並ぶため、惑星パレードと呼ばれます。惑星パレードを目にする機会は、十数年から数十年に1度しかないそうで、天文好きを盛り上がらせました。
いくつかの惑星とオリオン座くらいは東京でも肉眼で捉えられますが、地方に行けば、星々の美しさが際立って見える地域も少なくありません。山あいの温泉地で、ふと見上げた夜空の美しさに感嘆の声を漏らした経験を持つ人も少なくないでしょう。そうした地域では、星空ツーリズムを夜の観光メニューの柱に据えていたりします。盛り上がる天文ブームに乗り、星空を目当てに旅をしてみてはいかがでしょうか。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.11からの転載】